「あ」

「わ、こんばんは」

「……コンビニ?」

「はい。ちょっとアイス食べたくなってしもて。財前さんも?」

「おん、ちょっと酒買いに」

玄関を出た瞬間、徒歩五分のところにあるコンビニに行くだけやからとこんなジャージ姿で家を出てきたことを後悔した。財前さんは私とそう変わらない格好なのに、いつも通りかっこいいから狡い。雰囲気で一緒にコンビニまで行くことになってしまったことは、私にとって小さなハッピーだった。
夜11時にもなると辺りの暗さに助長されて一段と寒さが厳しい。コンビニの自動ドアをくぐって中に入るときの安心感と言ったら。
私がアイスの前でどれにしようか迷っていると、既にレジ袋を携えた財前さんが隣に並んだ。透けて見えた袋の中身はレッドブルとブラックガム。「お酒じゃないやん、見栄っ張り」と内心面白がる。

「買った?」

「まだです。ストロベリーかバニラか迷ってます」

「はよう」

あ、帰りも一緒に帰ることになったんや。と、密かに気になっていた疑問が一つ解決した。自然と一緒に帰るという答えを示してくれたことが嬉しかった。奢ってくださいなんてふざけたら即座に却下されてしまったけれど。
レジを済ませて帰路に着く。外の空気に触れた途端我慢できなくなってジャージの袖内に手を引っ込めた。徒歩五分だけあって、しょうもない世間話をしていたらあっという間に部屋の前に着いた。

「あ、じゃあ、ここで。徹夜頑張ってください」

「……徹夜ちゃうから」

「そうですか」

にやにやしながら鍵を回せば錠が快音を響かせて上がった。

「なあ」

おやすみなさい、そう締めくくって温かい部屋の中に入ろうとした時だった。掬い上げられた会話の終着点を不思議に思いつつ、財前さんの方を見やった。

「今度から夜中出歩くときは声掛けて」

「え? いや、そんな」

「コンビニくらい付き合うから……部屋に電気付いてるときやったら」

じゃあ今晩はいつ声掛けても大丈夫ですね、と言おうとしたけど財前さんが拗ねてしまっては困るから「じゃあまたお願いするかもしれないです」と甘えておいた。
心なしか少し財前さんが照れているように見えたけれど、自分の提案に対してなのか、私の返答に対してなのかは不明だ。
一際強い風が二人の体をぶるりと震わせる。そうして二人同時に首を竦めたことが可笑しくて私も少し照れ臭くなった。

「おやすみなさい」

「おやすみ」

切り出した別れの合図は寂しいものではない。その証拠に心はじわりと温かい。部屋の中に入ってからさっきのやり取りに口元を綻ばせたのは秘密だ。


月の鱗


120205
2012年初めてのお話。
つなぎが不自然……堪忍

タイトル、√A
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