女の人がもらって嬉しいプレゼントってなんなんスか。
手元の漫画から目も上げないままに言われた一言に、呑気に飴玉を下の上で転がしていた私は危うくそれを飲み込んでしまいそうになった。

「プレゼント?」

「プレゼント」

依然として彼は漫画を見つめたままである。
急にプレゼントだなんて、どうしたんだろう。女の人が喜ぶってことは私にくれるつもりだって解釈してもいいのかな。
ねえ漫画ばっか見てないで、こっち向いて。言葉だって足りないよ。

「な、なんで急にプレゼント?」

「近所の子にこの前の誕生日にプレゼントもらったんすよー。お袋が返せってうるさいんで」

ああなんだ、とか落胆してしまったのは至って仕方のないことだと思う。悪いのは、きっと千丸くんだ。
自惚れてしまった恥ずかしさを隠すように下を向く。と言っても、千丸くんはさっきから手元の漫画から目を上げないからこんなことしたって無意味なんだけれど。

「近所の子、でしょ? お菓子とかハンカチとかかなー」

「そんな無難な感じでいいんスか」

「多分。よく分かんない」 

「じゃあその辺にしときます」

「うん。ラッピングちゃんとしなきゃダメだよ」

「まじすかー。あれってお金掛かるんじゃ?」

「最近は簡単なのだけど無料でやってくれるとこ多いよ」

「……よく考えたら贈り物って初めてっすわ」

「男の子ってそういうことしなさそうだもんね。女の子はほら、友達の誕生日プレゼントとかよくやるから」

「じゃあいい店知ってます?」

「ああうん。えっとねー」

いつの間にか彼は漫画を閉じて私の方をしっかりと見ていた。顔の赤みは隠しきれていただろうか。








「先輩、お疲れ」

「千丸くんもお疲れ様」

「今日は楽器持って帰ってるんスね」

「明日から部活二連休だからね」

「ボーン貸してください、おれが持ちますから」

「いいの?」

「おれが持った方が安全でしょ」

「じゃあ、お願いします……」

「……そういえば今日同じクラスのボーンのやつがワックス代わりにグリス使えとか言ってきてどうしようかと思いましたよ」

「えーそれは……」

「ほんとイケメンの無駄使いっすわ」

「あはは! 確かに!」

「あ、そういえばー」

「ん?」

「この前話したプレゼントのことなんですけど」

「買ったの?」

「いや、まだっス」

「なんで? いいの見つかんない? 一緒に探す?」

「いやそういう感じじゃなくてー……」

急に口ごもって制服のポケットを探りだした彼を、私は首を傾げながら見る。
次の瞬間 、骨ばった千丸くんの手には全く似合わない可愛くラッピングされた小さなものが私に向かって差し出されていた。

「え、これ近所の子に? ちゃんと買ってるじゃない」

「いや、これは先輩に」

「私……?」

「やっぱ人生初の贈り物は先輩にあげときたいなーとか思ったんで」

びっくりしてしまって一時停止してしまう私。照れた様子を見せることもなく、いつもと変わらない淡々とした口調で、とびっきりキュンとくる台詞を吐いた彼。
好きだって、大好きだって気持ちが溢れてくるのは当たり前のことでしょう?

「う、わ……ほんとに嬉しい。ありがとう……」

「大したもんじゃないっスけど」

「開けてもいい?」

「どうぞ」

「――マニキュア?」

「その色、先輩に一番似合うと思いますよ。そこのメーカー品質いいし」

「これ買うの、恥ずかしくなかった?」

「別に。いっつもマニキュアくらい買ってますし」

「あ、そっか。そういえばそうだね」

「まあまた気が向いたら塗ってみてください」

「そうする。本当ありがとう」

滅多に微笑まない千丸くんがふっと優しい表情をする。
普段愛想が足りてなくったって、ちょっと人とずれていたっていい。たまに「私のことちゃんと大事にしてくれてるんだな」って思い知らされるような優しさをくれる彼が、堪らなく好きだ。



111016
HBB千丸くんのお話でした。ちなみにこのエピソードは後輩の身に起きた実話を基にしたフィクションです……羨ましいな。
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