「お、女が!」

「おい御空また幻覚……女だ!」

「こんにちはー」

いつものように御空と宍戸が初々しい反応をする中で愛想よく微笑む彼女は、俺の幼なじみである。響野から楽譜を借りるということで今日はここに来ている。

「いやー響野に『ジャパグラ』あって助かったよ。部費ピンチなんだよね」

「去年定演でやったからな」

「綾に聞いてよかった」

「はいはい」

「そうだ、このあと何時まで部活?」

「五時半」

「あと三十分ちょいか……待ってていい?」

「俺を?」

「久しぶりに一緒に帰りたいなー、とか」

「え……」

「だめ?」

「うーん」

「はいはいはい! 俺一緒に帰れます!」

「御空、おまっ!」

「分かった、待ってろ」

了承の返事をした途端、ペットの二人から「綾乃ずりぃぞ」という声が飛んだが、まあ気にしない。御空と彼女が帰るとことか、見たくないし。練習が終わるまで音楽室にいるように言って、ボーンの練習場所に帰る。
その途中で色々な感情や考えが巡るが、総括すれば柄にもなくドキドキしているということで、そしてこのドキドキが何を意図しているのかが分からない程、俺は鈍感でも自分の気持ちに嘘を吐いてもいなかった。







「お待たせ」

「お疲れ様」

「何もなかったか?」

「何が?」

「……いや、なんでも」

「音楽室でね、パーカスの人たちが演奏聞かしてくれたんだよ。響野って面白い人が多いんだね」

「かもな」

「綾も相変わらずグリス大量消費してるの?」

「まあな。あの感触はやめらんねぇ」

「ふふ、変わってないねえ」

「……笑うなよ」

「笑ってないよ。懐かしがってるの」

「あっそう。……てか俺ん家ここ」

「えっと……寄ってっちゃだめ?」

「は?」

「響野行くって言ったら、お母さんに綾にって佃煮持たされたんだけど。一緒に食べない?」

「……食べる」

男が一人暮らししてる部屋に入るってことに危機感の一つも持っていない彼女も彼女だけど、誘惑と期待に負けてしまう俺も俺だ。
部屋に入って彼女を適当に座らせて、自分はご飯をチンして、佃煮を皿に盛る。

「いただきまーす」

「いただきます」

「ご飯ありがとうね」

「佃煮だけじゃ物足りないねぇだろ」

「綾、ちゃんと料理してるの?」

「いや……あんま」

「体には気を付けてね」

「どうしたんだよ、急に」

「今日の帰り道、綾元気なさそうだったから」

「いやあれはその……意識、してて」

「意識?」

「久しぶりだし、御空とかに笑うし、パーカスと仲良くなってっし、」

「あ、綾……?」

「分かる? 今も、めちゃくちゃ意識してんだけど」

我ながら、余裕がないなあと思う。顔を真っ赤にして俯いているところを見ると、彼女にはちゃんと伝わったらしい。
彼女は俺のことを幼なじみだとしか思っていなかっただろうし、急にこんなことを言われたって困惑するだけだろう。

「……それは、私のことが好きって、こと?」

「そう」

「冗談じゃなくて?」

「冗談じゃない」

「ほんとに?」

「ああ。ついでに、お前今すぐこの部屋出てった方がいい」

「え?」

「これ以上我慢できる自信がねえ。これ以上一緒にここにいたら、何かしちまいそうだ」

「……それ、私も綾が好きって言ったら、どうなる?」

「は?」

「私も綾が好き」

「冗談?」

「ちがう」

「本気?」

「うん。ずっとずっと前から、好き」

「……」

「まだ『何かしちまいそう』?」

「ああ……キス、したい」

「うーん」

「それから、ぎゅーってしたい」

「うん」

「……俺も、好き」

「グリスより?」

「当たり前だろ。つーか比較対象じゃねえだろ」

「あはは。佃煮食べない?」

「食べる。食べたら、送ってく」

「何もしないんだ?」

「……これから」

「ふふっ、覚悟しとくね」



110811
需要とか知りません。完全なる自己満足です。
綾乃かっこいい……ほんと惚れるわ。
短絡的なお話でごめんなさい。
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