「……平子、離せ」 「イヤや」 「離せッ!」 無理矢理ほどこうとしても捕まれた手首はびくともしない。くそ、こんなに細っこいくせに。 「なんなんだよ、何か用なのか!?」 「何で最近俺のこと無視すんねん」 「そんなもの、別に、してない!」 「嘘つけ、そんなに動揺して」 先日、同期の平子が隊長に昇進した。誰よりも速い昇進だ。 同期の中でも平子が飛び抜けて秀でていたのはもちろん分かっている。 だけど私がそれが悔しくて悔しくて、平子にちっとも近付けない自分が腹立たしくて、素直に彼の昇進を祝ってやれないのだ。 口を開けば平子を傷つけてしまうような気がして、怖い。 「隊長の言うこと聞けへんのか」 「……うるさい。それは私に対する皮肉か」 平子があからさまに傷付いた顔をした。しまったと思うがもう遅い。私の手首を掴んでいた細っこい手が弱々しく離れていく。 なんで。 こんなに細くて弱そうなのに、アホなのに、口悪いのに、落ち着きもないのに、不真面目なのに。 なんで私から遠ざかっていくの。 「俺なんかしたか」 「……」 「隊長の仕事って思ったより大変やねん」 「だから……嫌味かッ!」 「ちゃうわ。大変やから、お前に無視されたらキツイんや」 「意味のわからんことをぬかすな」 「せやから! お前と話したりしとる時が唯一俺の落ち着ける時間なんや!」 「なっ……」 「無視されたら、しんどいのに負けてまいそうやねんボケ」 「……」 「無視せんといてえや」 「そんな、」 そんなこと、言われたら。 素直な気持ちがこぼれ出てしまいそうになる。 110803 私はあなたのそばにいたい |