急に抱きついたことにびっくりしているのか、千歳は何も言葉を発さないままで、部屋にはちょうどクライマックスを迎えているジブリアニメの主人公の声だけが響いている。 「……急にどぎゃんしたと?」 「さっきは冷たくしすぎた、ごめんなさい」 「そぎゃんこつ気にせんでよかよ」 「っ……私! 可愛くなんかないのに。千歳の彼女とか、相当おこがましい身分違いのポジションやのに。なあ、ごめん。謝るから。お願いやから、嫌いにならんといて」 「お前さんが冷たいのはいつものこつやろ。今更気にせんたい」 「……いっつもの、こと」 「通常運転中ばい」 私が黙ったままでいると、千歳は私の腕を優しくほどき、向かい合って、その大きな胸の中に私をうずめてくれた。髪を撫でてくれる手が心地いい。 私は静かにその胸に頭をもたれかける。 「嫌いになってへん?」 「これっぽっちもなってなか」 「可愛くない彼女でごめんな」 「お前さんはむぞらしかよ、言わしなさんな」 「……これからは、ちょっとだけ優しくしようかな」 「俺に?」 「うん」 「心配せんでも大丈夫たい。お前さんは大事なとこでちゃんと優しかよ」 「ほんま?」 「俺が落ちこんどるときに真っ先に気付いてくれるんはいつもお前さんばい。こん前怪我したときも、誰よりも心配してくれたっちゃ」 「あれは……」 「そんままのお前さんでよかばい。そんままのお前さんで俺を夢中にさせるんには十分」 「……」 「ああ、それから。いっつもは冷たかばってん、たまにこうやって甘えてくるんがたいぎゃむぞらしかよ」 「もーやめて、照れる」 ふっ、と口元をゆるめた千歳の顔が近付いてくる。 私はおもむろに目を閉じる。それから、唇に柔らかい感触。 千歳との穏やかなキスはいつも私を恍惚とさせる。 千歳がパジャマ代わりに着ているTシャツをギュッと握ると、私の背中に回っている手もギュッと強くなった。 「ジブリの続き見る?」 「おーそうすったい」 鼻に感じる異常な痛さで目を覚ました。あれ、私は寝てしまっていたのか。 昨日は千歳とジブリ見てて……そのあとからの記憶が、ない。 「おはようさん」 「……し、らい、し?」 視線の先にはもう既にユニフォーム姿の白石がいて、私の鼻をギュッと摘まんでいた。痛いと言ったら渋々その包帯でぐるぐるの手が離れていく。 「そうやで、白石やで。ちなみにな、もう朝食の時間やで」 「……朝?」 「寝惚けすぎや、アホ」 「おおおお、お前ら! ふしだらすぎるで!」 「……謙也? 朝からうるさ、」 やっと意識がはっきりしてきたとき、ふとお腹辺りに違和感、ついでに首元に吐息を感じた。 驚いて頭だけ向けた先には千歳が気持ち良さそうに寝息を立てている姿があった。その腕が私のお腹に巻き付いていて、これ以上身動きが取れない。 「何で千歳と同じベッドで寝とん……?」 「白々しいでー自分。昨日はあんな嫌々言うとったんに、やることしっかりやったんかいな」 「いやちょっと意味が分からんのやけど」 「お前らなあああ! いくら付き合うとるからいうてもまだ中学生なんやぞ! しかも部活の遠征で!」 「ごめんとりあえず謙也はうるさいから黙ろうか」 「嘘なんか吐くもんやないでー。昨日の夜千歳としたんやろ?」 「はあ? したんやろって……ああ、そういう意味。何言うとんこの変態が」 「……してへんのか」 「当たり前やろ」 つまんなーとぼやく白石とまだ顔を真っ赤に上気させついる謙也。二人とも勘違もええとこや。 まあでも、同じベッドに思春期真っ盛りの男女が寝ているなんてよろしくない光景であることに変わりはない。早く抜け出そうと試みるが、さすがというかなんというか、千歳の腕は解ける気配さえない。 「ちょ、白石と謙也手伝ってえな」 「いやなんかおもろいし」 「っ謙也!」 「……」 「おい謙也!」 「お前さっき黙れ言うたもーん」 こいつら、めんどくさすぎる! 千歳は千歳で起きる気配さえないし! 「ほんじゃあ自分ら、練習までには起きてきいな」 「え……ちょ、待って!」 扉が閉まり、オートロックが落ちる音が無情にも重々しく聞こえた。 この状況で私を放置していった白石と謙也を私は多分しばらく許せそうにない。 「やれやれ、やっとどっか行ったとね」 「は、千歳……?」 「全く白石も謙也も朝からせからしかー」 「起きとったん」 「うん」 「……じゃあはよ目開けんか!」 「やって」 「え!?」 「お前さんともうちょいこうしときたかったけん」 「うっ」 「あとちょっとだけ……よかやろ?」 「ちょ、ちょっとだけやからなっ!」 塩だか砂糖だか知らないけどもう全部入れちゃおう 110718 やっと完結…… お粗末でした タイトル、3/19 |