「白石、明日の英語ってレッスン26?」 「それ前終わったやんか」 「え、せやっけ?」 「明日はレッスン27やで」 「うわ予習してへん……」 「はは、残念やったな」 「明日数学も問題あたっとるし、社会もなんか宿題あったやろ? あーもう出来る気がせん」 「計画性ないからや」 「先輩っ!」 「金ちゃん! どしたんそんな全速力で走ってきて」 「先輩今日もーやることない?」 「今日はもう終わりー」 「せやったらワイと帰ろ」 「いいけど。どうしたん急に」 「いーからー、帰ろー!」 小さい子がおもちゃ売り場で駄々をこねるように、私の制服をぎゅーぎゅー引っ張って、金ちゃんの力のせいで服が伸びてしまいそうだ。 「うん帰ろうな、だから引っ張んのやめてくれる?」 「はーやーくー」 「はいはい。んじゃ白石バイバイ。明日出来てなかったら英語の予習見せて」 「嫌やわ」 「先輩ー!」 「じゃあまたな」 「うん」 「金ちゃんもまたな」 「……」 白石が挨拶したのに、金ちゃんはしかめっ面のまま何も言わず私の手を引いていく。 白石は白石で、後方で金ちゃんも男の子やなあ……とか意味のわからないことを呟いているし。 「先輩」 「んー?」 「先輩好き。大好き」 「ほんま今日の金ちゃんおかしいで。調子悪い?」 「先輩は?」 「いやまあ、好きやけど」 「なんかよう分からんねんけどな、先輩と白石が喋っとるとこ見たら心臓がイーッってなるねん」 「……だから急にあんなこと言うたん」 「おん。ごめんなさい」 「……謝らんでええよ」 「怒ってない?」 「怒ってない」 だってそれってやきもちやろ? 今やっと、白石が金ちゃんも男の子やなあと言った意味が理解できた。 金ちゃんがあんなんだから、不安になる訳じゃあないけど、時々付き合っているのか分からなくなるときがある。 だけど。 「私ちゃんと愛されとるんやなあ」 嬉しすぎるから、繋がれている手を握りかえした。 金ちゃんが私の手を握る力がまた少し強くなった。 110711 金ちゃんはやきもちって言葉を知らずに本能的に「嫌や」って思ってればいい。 それが可愛い。 |