千歳くんは意地悪だ。
体育館に流れている軽快なリズムとは裏腹に、私の機嫌はすこぶる悪かった。
その原因は私のフォークダンスのペアが千歳くんだということにある。千歳くん自体学校に来ることが少ないから、ただでさえ私はいつも中年男性の体育教師と組まされる羽目になる。
今日は初めて千歳くんが体育がある日に学校に来て、ちゃんとペアがいるっていうのに、さっきからあの長身を武器に手を高く高く上げていて、とても私の手は届かない。
いい加減、嫌いになりそうだ。

「千歳くん」

「なんね?」

「手もうちょい下げてくれへん? 届かんねん」

「お前さんちっさかねー」

「千歳くんがでかすぎるんや」

「にしてもちっさか。むぞらしかねー」

「(むぞらしかってなんだ?)いいから! はよ下ろしてえな!」

「ははは」

「(こいつ……性格わる)」

「ところで、俺が来とらん間誰と踊っとったと?」

「北田と」

「え、あの中年おっさんと?」

「そう。まじきもかってんからな。手とか脂ぎっとるし、息遣い荒いし」

「そりゃ災難やったばい」

「うん、千歳くんのせいやけどな」

「ははは」

「せやからこれからは出来るだけ体育のある日は来てよ」

「おーそのつもりったい」

「……えらい素直やん」

千歳くんはにこりと笑って手を私の届くところまで下げてくれた。不思議に思いながらもその大きな手のひらに自分のものを重ね合わせると、ぎゅっと包み込まれてしまった。

「な、なにしとん」

「お前さんと組めるんやったらもっとちゃんと学校来とけば良かったばい」

「いや……え?」

「……好きな子にはいじわるしたくなるって、聞いたことあっと?」

私が目をぱちくりさせていると、千歳くんは急に繋いでいる手をぶんっ、と上空に振り上げた。

「え、ちょっ」

「意味わかっとお?」

「全然わかりません」

「……お前さんのこつ好いとるってこったい」

その時先生が集合の合図を出し、みんなが一斉に動き出す。
私の心の中もざわざわざわざわ、騒がしい。
……千歳くんの手、男の子の手やったなあ、ごつごつして皮分厚くて。あのマメはラケット握ってるからなんかな?
……ていうか、千歳くん、私のこと好きって言うた?
やっと状況把握ができてきて、私は一人どきどきしていた。先生の諸注意とか耳に入るわけがない。
次から体育ある日は来るって言うたよな……どうしよう。こんなどきどきがずっと続くやなんて、耐えられへん。ていうか意識、してまう。
千歳くんはやっぱり意地悪だ。
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