ざわざわと煩い喧騒の中、前の席の謙也が何だかすごくわくわくしたような目でこちらを振り返ってきた。なんていうか、餌を目の前にした犬みたい。
自分の机にどん、と乗せられたカッターから覗く男らしい腕にちょっとドキリとしたのは私だけのひみつ。

「今日俺のドラム見てくれとった?」

「あ、うん」

「自分いっちゃん前の席座っとったやろ? 見えたで」

まさか知られていたなんて。謙也は何事もないようにそれを言うけど、私には結構な大問題なのである。
だって、好きな人がドラム叩くって、見に行かなくて何をするんだろうか。
舞台から見えるなんてことは想定外だったけど。

「なあ、俺かっこよかった?」

「それ端から聞いたら謙也痛い人やで」

「なあなあ!」

「あー……後ろに座っとった男子とかめちゃくちゃかっこええって興奮しとったで」

「おん」

「うん」

「……それだけ?」

「え?」

ぶすっ、という効果音が空気中に見えそうなくらいに眉間にシワを寄せ、口を面白くなさそうに尖らせている。
可愛いっちゃ可愛いんだけど、ね。やっぱり笑顔の方が好きだなあとかこんな状況でも考えてしまう。

「えっと……あ!先生たちもめっちゃ謙也のこと誉めとったし、トイレで出会った後輩もかっこいい言うとったから、あいつ私の前の席やねんでって自慢したった!」

「ちゃうやろ」

「えっ、と?」

「人が俺んことかっこいいと思うかなんか聞いてへんねん。お前が俺をかっこよく思ったんかどうかを、聞きたいねん」

目があったら、顔を真っ赤にさせてそれでもすごくまっすぐに私の目を見つめる謙也がいた。
ミジンコみたいな心臓が教室の喧騒に負けないくらい煩くて。都合のいい想像ばかりが脳内をぐるぐるまわる。期待、なんてしてもいいの?

「滅茶苦茶かっこよかったで」

「そっかー良かったー」

このタイミングで私の大好きなとびっきりの笑顔を見せるし。

「惚れてまうかと思ったわ」

私は意味の分からない発言をしてしまうし。

「俺はけっこー前からお前に惚れとったけどな」

謙也も私につられて爆弾発言しちゃうし。
ああ、熱い。


110429
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