シャワーを捻って熱いお湯が肌を滑っていく。ざあざあと煩いこの音が、どうか私の高鳴って仕方ない心音をも掻き消してくれますように。 だって、濡れた髪とか、反則。言葉通り「水も滴るいい男」じゃないか。あんな色っぽい姿を見せられてしまったら、ますます一人で勝手に落ち着かない。 ゆっくりと時間を掛けてシャワーを浴び終えて、やっと平常心を取り戻せてきた頃、持ってきた着替えの中にズボンがないことに気が付いた。 「みすった……鞄の中や」 しばらく脳をフル回転させて考えるが、やはり千歳に取ってきてもらうほか解決策はない。まさかこの格好のまま出ていく訳にもいかないし。 「ちっ千歳ー!」 「んー?」 「あんな、私の鞄の中からズボン取ってくれん?」 「どうかしたと?」 「ズボンだけこっちに持ってくんの忘れた」 「そのまま出てきてよかよー」 「アホなこと言うとらんとはよズボン取って」 「つれなか……鞄のどこに入っとっと?」 「つれるわけないやろ。鞄の中に袋入っとるやろ、そん中」 「袋、二つあるばい」 「(やば、それ一個下着入っとるやつや)ピンクの方にあるから!赤い方絶対あけたらアカンで!」 「……」 「えっ嘘!なあ!」 「冗談たい。ズボン、あった」 「それ貸して!」 「ばってん、さっきお前さんに絶対こっち来るな、ち言われたばい」 「あああそれ取り消し!」 「行ってもよか?」 「いいけど風呂場の前に置いたらすぐ帰ってな」 「……つまらん」 「おい」 「はいはい、置いたっちゃ」 「ありがとう」 人影が消えるのを確認し、恐る恐る風呂場のドアを開ければ、千歳は大人しくリビングに戻ってくれていた。 ちょっと冷たくしすぎた、かな。 それから鏡に映る自分の姿を見て心底げんなりした。千歳のあの色っぽさからは遠く駆け離れた、不細工な姿がそこにあったからだ。 そうなると不安というものがいきなり顔を出しきたりして、無性に一人が怖くなる。 冷たくしたのは私なのに、千歳に嫌われたくない。元々大して可愛くもない私にできることなんて愛想よくすることくらいなのに、性格まで悪いなんて、自分から千歳に嫌われようとしているようなものだ。 静かにリビングに戻ると、熱心にテレビを見つめる大きな背中が目に入って、自分でもよく分からないうちにその背中に抱きついていた。 110409 |