「え……蔵?」

「おー疲れとるとこ悪いな。コンクールで優勝したらしいやん、おめでとう」

「それ言いに?」

「おん。職員室でたまたま聞いて居ても立ってもおられんくてな」

「あ、りがと」

「……自分元気ないことない? 疲れとるから?」

「うっ……蔵ぁ」

「え、ちょ! どうしたん! 泣かんといてえな」

「っ今日の、コンクールでさ、優勝したあと、」

「うん」

「同じコンクールに出て、た出場者に、言われてん」

「何て?」

「親が、ピアニストなんやから、優勝するの、当たり前やって。上手いって先入観で見られてるだけやって、優勝も実力ちゃうって」

「そんなこと言われたんか」

「テニスとかと違ってさ、音楽とか美術の勝敗ってある程度曖昧なところがあるやろ?」

「まあ具体的な点が出たりとかじゃないもんな」

「やから、その子の言うこと、否定も、出来ん」

「……」

「優勝を、素直に、喜ばれへんねん」

「なあ、自分テニス部のモットー知っとる?」

「モットー?」

「勝ったモン勝ち」

「……」

「俺、お前がちゃんと努力しとったん知っとるで。毎日学校の音楽室で遅うまで弾いとったもんな」

「聴いとったん」

「ちゃんと聴こえとったで。何回も何回も同じとこ繰り返し弾き続けて」

「恥ずかし……」

「お前は確かに人より恵まれた環境でピアノを学べたんかもしらん。でもただその環境に甘えとっただけやないやろ? ちゃんと努力して、苦しんで、それで掴み取った優勝やろ? それやったら恥じることなんか負い目に思うことなんか何もあらへん」

「蔵、」

「勝ったモン勝ちや。言いたい奴には言わせとけ。そんなん所詮負け惜しみや。お前の努力も何も知らん奴の負け惜しみや。お前は自分のやってきたこと信じて自信持っとけ」


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