今日は三月五日、今の私の隣の席である幸村の誕生日だ。 なぜ私が幸村の誕生日を知っているのかと言えば、朝からひっきりなしにやって来る幸村のファン達が大声でおめでとうを連発しているからである。 幸村はそれに一々ありがとう、とあの爽やかなスマイル付きで応じている(絶対心ん中では毒吐いてるんだろうけど)。よって今日は私の隣に幸村が座っているなんて授業中くらいなものだ。 「あ、幸村おかえり」 昼休み終了十分前になり、やっと幸村はファンの子達から解放され席に戻って来た。……お昼ご飯食べてないんじゃないのこの人。 「昼休みもすごかったね」 「ほんと」 そう言って幸村は女子達から貰ったんだろうプレゼントを乱暴に机の上に落とす。ファンの子達はこんな一面知らないんだろうな。 「そういえばさ、幸村昼ご飯食べた?」 「いや、食べ損ねた」 「だろうね。はい、これ」 「チョコ?」 「うん。ちょっとだけど甘いもの食べたら少しは空腹紛れるでしょ」 「……」 「あ、ついでに誕生日おめでとう。まだ言ってなかったよね?」 「うん、実は言ってくれるの待ってた」 「残念ながら私が幸村の誕生日今日だって知ったのあのファンの子達が言ってたからだけどね」 「ああ、そうなの」 あの子達ただうざいだけだと思ってたけど意外なところで役立ってくれたなあ、なんて意味の分からないことを呟きながら、幸村が私のあげたチョコを口に放り込んだ。 机の上のプレゼントの中に、ある高級チョコの箱があるのがちらっと目につく。 「なんだ、私の貴重なチョコあげるまでもなかったんじゃん」 「は?」 「だってそれ」 「……ああ」 「二十円そこらのチョコでごめんねー」 「……俺さ、ああいう子達苦手なんだよね」 「何となくだけど見てれば分かる」 「だってさ、本当に俺のこと考えてくれてるならお昼くらい食べさせろって感じだし。自分勝手なんだよ」 「うわ、あの子たちかわいそー。まあ私もそう思うけどね」 「俺はさ、お昼ご飯のこと心配して二十円のチョコくれる奴の方が好き」 「ああそりゃどーも」 「これ、あげるよ」 「え……はあ!? こんな高級チョコ貰えない! 第一幸村が貰ったやつだし」 「俺が貰ったんだからどうしようと俺の勝手だよ」 「そ、それに! たかが二十円のチョコのお返しにこれは釣り合わないよ」 そう言ったあと、幸村は何を思ったのか机の上のプレゼントを全て私の机の上に移動させた。 え、何これ。私にこのプレゼントたちを処理させるつもり? 絶対明日から私の上靴なくなるんですけど。 「ゆ、幸村さん?」 「君からのチョコとおめでとうはこのプレゼントの山くらい価値があるんだよ、俺にとってはね」 「え?」 「じゃあちょっと疲れたから五時間目始まるまで寝る。先生来たら起こして」 そう言って綺麗さっぱりになった机の上に突っ伏した幸村。 私は、ただただ瞬きを重ねることしか出来なかった。 100305 |