どうせだれも知らないし、と思ってマイナーなミクの曲を口ずさむ。ああ、何回聞いてもいい曲だ……! 「あっ」 え?と顔を上げると、クラスメートの財前くんのいつものクールな顔が驚いた表情になっていた。 が、それも一瞬。スタスタと自分の席へ戻って行ってしまった。 「なあ」 「わたし?」 「おん。自分ミク好きなん?」 予想外のことを財前くんから言われ、頭の中が真っ白になった。最悪。ちょっと気になってた人におたくとか思われた? 「え……なんで?」 「昼間教室で口ずさんどったやろ? あの曲ええよな」 「財前くんもボカロ好きなん?」 「おん」 「い、意外やわあ」 驚きを隠せず、目をぱちぱちさせている私の姿が面白かったのか、財前くんが笑う。今日は良い日だ。財前くんの色んな表情が見れた。 「財前くんの好きな曲とかまた教えてよ」 「ああ、これとか知っとる?」 財前くんが出した曲名は、私も大好きな曲だった。 「あああ、それめっちゃ好き!」 「まじで。結構特徴的なやつやのにな」 「趣味合うんかもな」 「財前、お喋り中悪いけど」 「げ、部長」 「もう部活はとうの昔に始まっとるんやけどなあ?」 「今日オフやなかったんですか」 「白々しい嘘はやめい」 「あ、あの、財前くん。部活行っていいで」 「ちっ……行きますよ、行けばいいんでしょ」 「先輩に向かってその態度は何や!」 溜め息を吐きながらドアに向かうテニス部の部長さまと、後ろをだるそうに付いていく財前くん。私は一人幸せな気分に浸かりながら、帰る用意でもしようと席を立った。その瞬間、財前くんがこちらを向いて、目が合う。 「今度アドレス教えてや」 「う、うん!」 101212 |