首筋に顔を埋めて、幾つも咲かせた紅い華。それでも足りない、たりない、タリナイ。こんなにも求める俺は、もう人間ではないのかもしれない。



「かぐら」



橙から漂う香りをすんと吸い込めば、「変態」なんて呟く桜色。今度はそちらに噛み付いて、淫靡な音に背中が震えた。


「ん、ぅ……」
「……かわい」
「キモイ」
「好き」
「ウザイ」


素直じゃないな、相も変わらず。そんなところも愛おしく思える。重症だ、すっかりおめでたい頭になってしまった。


「どうしたら堕ちてくれる?」
「一生無理じゃネ?」
「勘弁して下せェよ、打たれ弱いんだから」


悪戯に笑うその顔も言葉にそぐわない上気した頬も、全てがすべて俺を魅了する。──だけど、これ以上は待てない。気の長い方ではないことぐらい、お前はとっくに知っている筈だろう?


「ふ、情けない面アル」
「うっせ」
「……じゃあ」
「ん」


倒れ込んで、じゃれあって、寝具に沈む赤色はくすんだ白によく映える。唇は貪るような口付けの余韻で濡れているのに、余裕すら見せる表情に不本意にも憶える口惜しさ。


「言ってヨ」
「なんて?」


問えば、視線を逸らされる。
許すものかと強引に引き戻しまた口付けると、途切れる呼吸が声を紡いだ。



「“アイシテルよかぐら”。……なんてネ」



おどけたように言う顔は、面白い程に真っ赤。
──ああ、なんだ。余裕なんて無かったのか。



「愛してるよ、神楽」



耳元で囁いてやれば、小さな躰はびくんと跳ねる。そのまま耳殻に舌を這わし刺激を与えて、微かに漏れ出た嬌声を合図に両手で抱き寄せた。


「堕ちた?」
「察しろバカ」
「俺の良いように釈っても?」
「……勝手にしろヨ」


拗ねたような口調に笑みが零れる。だけどそんな穏やかな心はすぐに消え去って、頭をもたげるのは激しい色情。湧き上がる恋慕に膨れる欲望、抑える術など忘れてしまった。



「ずっと待ってたんだぜィ?こうするの」
「っオマエ、ん、二言目には『ヤらせろ』だったもんナ。身体目当てだと思ってた、アル、……っあ」
「てめえにだけ、でさ。じゃなきゃ誰がこんな発育不全な躰欲しがるかィ」
「その発育不全に盛ってんのは誰ダヨ、このへんた、い、っ……!!」
「その変態に善がってんのは誰だろうなァ?」


暴いた肌に刻み込む所有印。高まる支配欲が理性を追い出し、敢えなく動物と化した自分に意識を預けてしまった。


「神楽」


深く深く打ち込む杭。腕の中の兎を二度と逃さぬように、最奥まで突き立てる。
鳴き声と泣き声。
罪悪感を感じる隙もなく興奮が駆け上がった。

──やっと、やっと、




「あいしてる」




つかまえた。