どうしてこうなったんだろう。
明日は黄瀬とデートだからと早めに寝たし、部活も真面目にやってきた。なのにどうしてこんな日に限って…。
「熱なんか出しちまうんだよ、俺…。」
溜息をついたって体温計に書かれている39.8の熱は下がることもないだろう。昨日黄瀬から電話がかかってきたときのあの声とテンションを見る限り、あいつも楽しみだったはずだ。少なくとも俺は楽しみにしていた。東京と神奈川でなかなか会えない距離でもある。それにあいつにはモデルというバスケ以外の仕事もある。ただでさえ時間が合わない俺らなのに。そんなことをぐるぐる考えている間に待ち合わせの二時間前になってしまった。黄瀬は昨日は東京で仕事だったから、と今は東京のホテルに泊まっているらしい。申し訳ない気持ちの中近くに合った携帯を開けば受信履歴の一番上の名前を呼び出し‘急用が出来た、デート行けねえわ、悪い’と素早く打ち込めば送信ボタンを押そうとした。こんなメールを送ったら嫌われるだろうか、自分勝手な奴と思われるだろうか。自分勝手なのはいつものことだろう、でもデートのドタキャンなどしたことがない。嫌われる覚悟で携帯の送信ボタンを押す。申し訳ない気分でいっぱいになりながらも布団に潜り込む。生まれて初めて引いた風邪だ、どうすればいいか分からず仕方なくテツに助けを求める。メールを打ては"明日は雪が降りますね。薬を飲んで寝ていてください。"という相変わらずな素っ気のないメールが届いた。薬などあるはずもない買いに行く気力もない。ひとまず寝るしか直す手段はないだろうと布団に潜り込み目を閉じればすぐに夢の世界に飛んだ。

"ガチャ"
誰かが家のカギを開ける音で目が覚めた。俺がこの家のカギを渡しているのは母親と黄瀬ぐらいだ。回らない頭で瞬時に母親か、と判断すれば再び布団に潜り込む。扉の開く音ですっかり目が覚めてしまい天井をじっと見つめる。すると何故か視界に黄色い頭が見えた。

「青峰っちー、死んでないっスか?」
暢気な声が聞こえる。この声を聞くだけでやたら安心してしまう。いるはずもないのに声が聞こえるなんて俺も末期か。そう思いながら天井を見上げる。じーっと見上げていると黄色い頭が目に入った。あー、ついに幻覚まで見えてきた。でも黄色い頭を見ていると何故だかはわからないが安心してしまう。あー、黄瀬だ。そう思いながら手を伸ばし抱きしめた。

「黄瀬。黄瀬、黄瀬。」
うなされるように何度も声を出す。寂しかった、心細かった、会いたかった。初めての発熱で不安ばかりで、どうすればいいのか、もしこのまま死んでしまったら、柄にもないことも考えた。でもこいつを見るだけで安心してしまう。顔をくしゃくしゃに歪めて笑う黄瀬の笑顔は俺をいつも励ましてくれた。どんなときもこいつの笑顔を見ただけで頑張れた。夢でもなんでもいい。このまま俺の傍にいてくれ、そう思いながら目を閉じた。


なんだこの可愛い生き物は。朝早く青峰からのメールで目を覚ました。急用が出来たからいけない。悪い。という短い文だったがいつもドタキャンだけは絶対しない彼だ。何かしら事情があるんだろうと考えもう一度寝ようと布団に潜り込んだ。青峰とデートが出来ないのは凄く残念だがそれに対して嫌だとか我侭を言うような年齢でもない。可愛い女の子ならいいかもしれないが、俺たちは男同士だ。流石にそれをしても気持ち悪いだけだろう。男同士というリスクは高いのだが好き同士ならいい、最近はそういう大人な考えが出来るようになった。どれもこれも青峰のおかげだ。今日ぐらいは大人しくしておこう。そして次会うときには思いっきり抱きしめてやろう、そんなことを考えながら天井を見上げていると黒子からメールが入った。青峰くんが熱を出したみたいです。心配なので後は頼みます。とのことだ。熱があるならどうして俺を呼んでくれなかったんだ。そんな思考に駆られるが青峰のことだ。俺に風邪をうつしたらいけない、とか考えて俺には連絡をしてこなかったんだろう。躾しなおさないとな、と薬と飲み物、冷えピタをもって向かった青峰の自宅。チャイムを鳴らしても出てこない、やっぱり寝ているのだろう。前々から貰っていた合鍵で扉を開けばベッドに入っている青峰が見えた。靴を脱ぎ、起こさないようにと近づいたがどうやら起きているようだ。顔を覗かせればぼけー、と視点の定まらないような目で見られる。あー、完全な熱だな、と思っていると急に抱きしめられた。不安そうな顔をしていたからやっぱり寂しかったのか、と頭をゆっくり撫でれば、耳元で黄瀬、黄瀬。と何度も俺を呼ぶ声が聞こえる。その後に続くのは、寂しかった、会いたかったという言葉だった。いつもの傍若無人な青峰からは確実に見られないであろう不安な顔は俺が笑うのを見た瞬間、安心したように笑い目を閉じた。

そして冒頭に戻るわけだ。そしていま現在、進行形で青峰に抱きしめられている、それはもう力強くぎゅー、と。非常に可愛い。可愛いのだけれども。

「…なにこの生殺し。」
病人を襲うわけにも行かない、でもあんな可愛い青峰を見せられたんだ。誰だってムラムラするに決まってる。

「あー、どうするっスかね…。」
ひとまず、青峰が起きるまで俺も寝ることにした。俺の息子が大人しくなることを祈りながら。

(え、ちょ、黄瀬、なんでここいんだよ。)
(何でっスかねー、青峰っち、風邪引いたときとかは黒子っちじゃなくて俺に連絡するんスよ!)
(…おう。)
(あー、青峰っち可愛かったなー。
((え、ちょ、まさか、あれが本物の黄瀬だったとか、ねぇよな…))


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