本日は晴天ナリ。とは言いがたい天気だった。空は分厚い雲に覆われていて、空から降る雨が地面を打ちつけている。いつもなら見える筈の光さえ雲でさえぎられていてなんだか悲しくなった。いつもは屋上でサボっている授業だが生憎の雨できっと屋上はびしゃびしゃだということは安易に想像が出来た。この雨の中びじょ濡れになってまで帰る気がしなかった俺は渋々教室に向かう。丁度二時間目の授業が終わるチャイムが聞こえ自教室に向かえばいつも居ない筈の俺を見る視線が痛かった。視線を無視しながら机に向かい空を眺めてみた。暖かい光など微塵も感じることが出来ない空はやっぱり見ていて悲しくなった。

三時間目開始のチャイムが鳴れば教師が入ってきて授業が始まる。中学の時はバスケ一筋、今もバスケは好きだ。でも何故だか今は酷くつまらなかった。面白くなかった。それからだろう、俺が授業にも部活にも出なくなり、屋上でサボり始めたのは。少し懐かしい気分になりぼけー、としながら黒板を見ながら教師の話を聞いていた。
「電子は原子核の周りをぐるぐる回っています。この二つを合わせて原子といいます。」
…昔の黄瀬と俺みてえ。
ほぼ無意識だった。きっと今の顔をあいつ等が見たら笑うだろう、それ程までに俺は焦っていた。忘れたと思っていた、忘れていたかったあいつの名前を思い出したのは。キセキの世代と呼ばれた俺らの中の一人黄色い髪のあいつだった。あいつは今頃何をしているのだろう。考え出したら止まらなかった。


黄瀬が恋愛的な意味で好きだった。
もちろん報われるなんてことは考えたことはなかった。黄瀬は至ってノーマルであって、もしノーマルじゃなかったとしても俺のことは憧れの対象としか見ていないだろう。黒子っち黒子っちと俺の元影の後ろをくっつきまわっている姿には嫉妬した。でも嫉妬しているなんでばれないようにあの頃は接せれていた筈だ。1on1するっスよ!と毎日毎日笑顔で駆け寄ってくる姿は犬耳が生えたと錯覚するぐらいに犬っぽかったし、撫で回したかった。でも黒子を見ていて思っていた。黄瀬は自分に振り向かない奴がすきなんじゃないかと。だから俺はあえて冷たくしたし、嫌々と言わんばかりの態度を取っていた。今思えばあの時素直になっていれば今とは違った未来が見えたんじゃないのかと。偶然聞いてしまったのだ。更衣室で黒子と話しているのを。好きなんスよ。と口走っていたところを。詳しくは聞いていない、正しくは聞けなかった。あの場所にいれば今にも泣いてしまいそうになるから。荷物は全て持っていたし、無事に着替えも済ませていた。それが救いだった。黄瀬と黒子には悪いと一瞬だけ思ったが、あの様子だときっといい返事がもらえるだろう。黒子も五月蝿い五月蝿いといいながら黄瀬のことは嫌いではない、といつか言っていたのを覚えている。せっかく付き合って始めて帰るのに邪魔者の俺が居たら折角のムードが台無しだろう。もし俺がその場所に居れば泣くのを堪える為にひたすら話し続けるに決まっている。あの事件、いや、事件と思っているのは俺だけかも知れないが、あれがきっかけでバスケ部に顔を見せなくなったのは確かだろう。

「黄瀬。」
気づいたら口に出していた。授業中にも関わらず私語を話すクラスメイトには見られていないのが救いだったが、その名前は酷く懐かしく、いとおしかった。あの笑顔をまた近くで見られたら、それをどれだけ願ったのだろ。でももう無理な話だった。俺は黄瀬をもう片思いの相手としか見れないし、黄瀬には黒子という彼氏がいるのだろう。それを考えるだけで胸が痛んだ。その痛みは中学の時と同じような痛みだった。黄瀬は今何をしているのだろう。光すら差し込まない空を見て再び思った。




今日もやっぱり部活に出る気は起こらなかった。大好きなバスケな筈なのに、何故か気が乗らなかった。その理由は自分では分かっていたが、それが一番の理由だとは思いたくなかった。なんであのときに黄瀬を思い出してしまったのだろう。もしあの時思い出していなかったら今頃ストバスにでも行ってバスケでもしていただろう。アイツの所為だ。そんなのが八つ当たりであることも分かっていたがそうでもしないと閉じ込めていた想いが出てきてしまいそうで怖かった。とぼとぼと家に向かう帰り道を歩く。さつきはきっと今頃部活だろう。俺にバスケというものが無ければ誰も俺なんかに興味は持たなかったのだろうか。柄にもないことを考えてしまい溜息をつく。舌を向いていた顔を上げ歩き出そうとすると目の前に綺麗な黄色の髪が見えた。


「…き、せ。」
今日一日、いや、黄瀬と出会ってからずっと、考えていた黄色いアイツが目の前にいた。わざわざ神奈川から何故こんなところに、という疑問はあとから沸いてきたが、今はそんなことを考えている余裕なんかなかった。黄瀬が目の前にいる。それが信じられなくて何度も目を疑った。本物なのか、偽者なのか、誰かの性質の悪い悪戯か。そんなことある筈もないのにと考える余裕すらもなくなっていた。


「青峰っち。」
あの頃と変わらない様子で笑いかける黄瀬を見ていたら何故か涙があふれていた。あれだけ会うのを我慢していたんだ、嬉しくなるとは思っていた。まさか歓喜極まって泣くだなんて誰が予想していただろう。嗚呼、黄瀬だ。目の前に黄瀬がいる。その事実だけが嬉しかった。ただこの泣いた姿を見られるわけにはいかなし、もし見られたとして、どんな風に接すればいいかも分からなかった。だから泣いているのを見られないようにしたかった。

「何で、泣いてるんスか。」
もう駄目だ、そう頭が判断した瞬間、黄瀬の前から走り去っていた。走って走って走って、ただひたすら走り続けていた。黄瀬は追いかけてくるのだろうか、もし追いかけてこなかったら、そう考えただけで悲しくなってしまった。黄瀬は追いかけてきているのか、そう疑問に感じゆっくり振り返れば真後ろに息せき切らしている黄色い頭が見えた。
「っ…、なんで、逃げるんスか…。」
黄瀬が追いかけてきてくれた、その事実だけで胸がいっぱいになりそうだった。ただそれだけのことだったのに俺の緩まりきった涙腺は馬鹿になってしまったようで再び塩辛い涙が目から溢れ出してきた。そんな俺を見た黄瀬はぎょっとしたように目を大きくさせあわあわしていた。

「ちょ、え、「好きなんだよ」え…。」

「お前のことが好きなんだよ!一日中ぐるぐるしちまうんだよ!どうしてくれるんだよ!なんで、なんで俺がこんなにお前のことばっかり考えなくちゃなんねぇんだよ!なんで、なんで、俺はお前が好きなんだよ…。」
そう言って泣き崩れた俺に覆いかぶさるように抱きしめ撫でてくる黄瀬はやっぱりやさしかった。でも今は、その優しさが痛かった。俺が必死の覚悟で好きだと告白したのにやっぱりアイツは冗談としてしか受け取ってくれなかったのか…。そう考えると黄瀬は俺を恋愛対象で見てくれていないんだということがひしひしと伝わってくるようで辛かった。

「好きっスよ。」
信じられない言葉が飛んできた。目を丸くさせゆっくりと顔をあげればにっこりと笑う黄瀬がいた。

「ぐるぐる考えちゃう青峰っちも、俺ばっかり考えてくれる青峰っちも、全部、全部だいすきっス。その言葉、やっと言ってくれた。」
そういって笑いかける黄瀬の表情はどうしても冗談だとは思えなかった。嗚呼、抱きしめられてる。そう思ったら涙が溢れ出してきた。

もういいや、黄瀬が俺を好きで、俺は黄瀬を好き。それだけでいいんじゃないかって思えるぐらいに俺は幸せだった。


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