画面に映る御前は、御前じゃなかったような気がした。
さつきに誘われて見ていたドラマには懐かしい顔をしている黄色の髪の彼奴がへらへら笑って彼女らしき人物にキスをしていた。その時に襲った胸の痛みには覚えがあった。

「なあ、黄瀬、帰ろうぜ。」
「あ、青峰っち!今日は女の子から告白されちゃったんで帰れないんスよ…、次は絶対帰るんでまた誘って欲しいっス」
「…おう、またな。」

あの時から俺は黄瀬とまともに顔が合わせられなくなった。俺はそんなにも鈍くないし、恋愛経験も多少はある。だけどこの感情の名前だけは知りたくなかったと今でも思っている。俺は黄瀬が好きだ。現在進行形で。黄瀬涼太という名前を聞くだけで胸が苦しくなるし、こうやってドラマを見ているだけでこんなにも遠くなってしまったんだと感じてしまう。高校卒業した後、俺はプロになった。そして黄瀬はモデル業に専念する、と決めたらしい。それからもたまにメールは来るが、黄瀬にやましい思いを知られたくなくてメールは返信は一切していない。嫌われたと彼奴が思ったのかは知らないが、メールはぱったりと来なくなった。この恋は終わったと思いつつも安堵した。よかった、これで彼奴の中では恰好いい奴で終われた筈だ。それから後は後悔だらけなのは言うまでもないだろう。好きにならなければよかった。好きにならなかったら今だって黄瀬と普通に話せたのに、と柄でもないことを考えながら溜息をついた。

「あー、あれから三年、か。」
黄瀬と最後に会ったのは高校の卒業式。最後にテツや赤司、紫原や緑間。高尾や火神もいたっけな、そして黄瀬。このメンバーでバスケをしたきり黄瀬には会ってない。テレビではよく見てるんだがな。いつもと変わりない笑顔だけど俺から見たらそんな作り笑顔は見たくない。そう思ってテレビを消す、そんなことを一体何度しただろう。黄瀬ともし次会うとしたら同窓会か、彼奴は忙しいだろうから来ないという気もする、まあ、会うにしろ会わないにしろ、その時までにこの思いが消えちまえばいいんだけどな。



久しぶりにテツに会った。街を歩いていてたまたま見かけた、というか火神を見かけて声をかけたらテツが一緒にいたというだけだったけど。久し振りに会ったテツは凄く楽しそうで、火神と同じ大学に行って同棲しているらしく幸せなんだろうな、と思った。

「青峰くんは黄瀬くんとどうなんですか?」テツの質問には正直びっくりした。黄瀬が好きなことは誰にも話してないし、上手くごまかしていたからバレているという自覚もなかった。やっぱり人間観察が趣味なやつは違えな。テツには中学時代からバレバレだったんだろう。

「どうもしねぇよ、今は連絡すら取ってねぇ。」
テツが悲しい顔をした。俺は別に悲しくはねぇし同情してもらうつもりもなかった。一瞬だったから隣に座っていた火神には分からなかっただろうが目の前に座る俺には分かってしまっだ。

「んな顔すんな、悲しくねぇから。――ただ、」
寂しいんだよ。
最後の一言は言わなかった、言えなかった。この言葉を言ってしまったら取り返しがつかなくなるような気がした。俺の中の何もかもを吐き出してしまう気がした。

それからは適当な理由をつけてテツ達と分かれた。それからの話は全く頭に入ってこなかったし俺が居てもあいつらのデートの邪魔になるだけだ。独り身の俺にあいつらの甘い空気を見せられても虚しくなるだけだ。



やっと長かった今日の練習が終わり、外に出てみれば雪が降っていた。嗚呼、そういえば今日はクリスマスか。クリスマスといっても独り身の俺には祝う相手もいねぇし街が賑やかになるぐらいにしか影響はない。帰り道には手を繋いでいちゃいちゃしているカップルが大量にいたし、幸せそうでいいなと思う。でも正直虚しくなった。羨ましかった。

「黄瀬がいたらな。」
そんな事を考えてしまう俺は末期だと思う。女々しいし面倒臭い、どんだけ黄瀬が好きなんだよ俺。そう思いながら溜め息を吐けばふと視界が暗くなった。

「だーれだ。」
一瞬訳が分からなくなった。脳内に過ぎった名前は一つだけで、でもそいつはこんな所にいる筈なくて、今も何処かで女の子に囲まれて笑顔を振り撒いている筈で。1on1するっスよ!!って言って無邪気に笑って、負けたら悔しそうに顔を歪めて、もう一回って何度も強請って。誰よりも喜怒哀楽がハッキリしてて、何でもかんでも一人で抱え込んで。いくら辛くても必死で笑って。そんな奴、俺は彼奴しか知らない。

「黄瀬。」
そう一言言って俺の目を覆っていた手をゆっくり剥がす。振り向こうとした瞬間、一つの思いが頭をよぎり、下を向いてしまった。もし黄瀬だったとして、今黄瀬を見てしまえば何もかもを吐き出してしまう自信がある、それでも見るのか。見なかったら後から後悔するのは目に見えている。ぐるぐると色々な感情が入り混じる。考えていても仕方がない、一か八かの思いで顔を上げると真っ先に黄色い髪が目に入った。

「せーかい。」
嗚呼、やっぱり。五年間、耳に穴が開くほど聞いていた声は少し聞いていなかかった程度じゃ忘れていなかった。にいっ、と口角を左右に吊り上げ、昔のように笑う黄瀬がいた。

「お前、何で。」
泣かなかった俺を褒めてほしい。黄瀬が見えただけで涙腺が緩んで瞳に涙の膜が張っていることが分かる。でも不思議と涙は零れなかった。

「黒子っちに青峰っちが寂しがってるって聞いたんスよ。」
やっぱりテツか。黄瀬が自分から会いに来る訳ないと思っていた、でもその通りだったらだったで悲しくなった。テツに言われなきゃ来なかったのかよ。俺はそれだけの存在なんだと改めて現実を突き付けられた。

「なーんて、嘘っスよ。」
黄瀬の言葉の意図が読めなくなって、頭の中はハテナだらけで真っ白になって、でも視界は黄色に染まっていて。リップ音を立て唇に口づけられたと同時に俺は黄瀬の腕の中にいた。

「俺思ったんス。どんどん遠くなっていく青峰っちを見てて俺も頑張んなきゃって思うんス。でも青峰っちはプロになって、どんどん先に行っちゃって、いつか手の届かない人になって。電話もメールも通じなくなって今だって返してくれないのに、メールが月一で返ってきた次は半年に一回で、次は一年に一回とか、どんどん減っていって、最終的に返ってこなくなって。そんなことを考えたら止まんなくなって。―だから会いに来たんス。」
そう言った黄瀬の表情はあまりにも綺麗で、この綺麗な表情は俺のためにしてくれてるんだと考えると嬉しくなった。

「好きっスよ。」
あまりにもさらっと俺の六年間言えなかった言葉を吐くものだから驚きのあまり声が出なかった。嘘だとおもった、黄瀬が俺を好きだなんてそんな訳ある筈無いと思った、でも、あまりにも綺麗に、愛おしそうに俺に向かって笑うんだから。

「俺も好きだ。」
これが嘘だったとしても、この嘘になら溺れてもいいと思った。


(因みに青峰っちバレバレっスよ、俺のこと好きだー、って目が言ってるんスもん。)
(え、まじかよ。)
(大まじっス。いつ告白してくんのかな、って思ってたらいつの間にか連絡来なくなったし。仕方ないから俺が言っちゃったっス)
(…そうか。)
(ま、これから一生離してやんないっス。だーかーら、覚悟しといて欲しいっス。)



2012/12/31
title from にやり様
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