「昨日のアレ見た?すげえ可愛かったよなー!」
楽しそうに部活の先輩達と話す宮地先輩は俺の恋人だったりする。今はどう思ってるかなんてしらないけど。

昨日はあの子がやたら可愛かったとか、あの絶対領域はやばいよな、とか今日は宮地先輩の推しメンの話しかしてない気がする、俺は別にアイドルなんて全くと言っていいほど興味はないし、正直部活で手一杯でそんなことをしている余裕もない。でも宮地先輩は大人の余裕振りまいてるわけで。それだけでも苛々するのにその余裕を俺に使ってくれないことにも苛々する、今日は駄目だ。宮地先輩の顔を見たら嫌な事を言ってしまうかもしれない。そう思った俺は自主練を中断した。緑間ももう終わろうとしていたのか帰るのだよ、と声をかけてきた。

「真ちゃん、サンキュ。」
今やめようとしていたなんて全くの嘘。流石にそれぐらいは俺にもわかる。伊達にエース様の我が儘にいつも付き合わされてきた訳ではない。ちょっとぐらい、多分ほんの少しだけだけど真ちゃんの考えてることが読めるようになった。でもそれは真ちゃんも同じらしい。こうやって俺が苛々してしまうときにはいつも感じ取って俺に合わせてくれる。入学して間もない真ちゃんだったら考えられないことだ。それだけ俺も真ちゃんの中に入れてるのだと嬉しくなった。

「…今回は宮地先輩が悪いのだよ。」
俺はチャリアカーを必死に漕いでるから真ちゃんの顔は見えなかった。でも俺のことを思ってくれてんだろうなーってのは十分伝わった。俺も今回は俺が悪くはないと思うし、宮地先輩が恋人の前で女の子の話をするから駄目なんだと断言できる。

宮地先輩がドルオタだってことは付き合う前から知っていたし、付き合ってからも散々聞かされた。もちろん今まで妬かなかったわけではない。俺なりに笑顔をつくって宮地先輩に嫌われないようにしてきた。でも今回は別だった。

「あー、可愛いな、まじこんな彼女いたらいいのになー。」
その言葉を聞いた瞬間、俺の中の我慢の糸がぷっつり切れた。それからその場を走り出していた。どうせ宮地先輩は気づいていないだろう。俺が他学年の教室に行くことなんて滅多にないし、どうせいつも一緒に食べていた昼飯の時に俺がこなくなっても誰かを誘って食べているだろう。もしかしたら可愛い女の子に告白されてるのかもしれない。そう思ったら胸が苦しくなった。いつもこうだ。俺ばっかりつらい思いして、宮地先輩はきっと俺のことをなんとも思っていないんだろう。俺が告白したときも、家に泊まったときも、キスすらしてくれなかった。好きだとも言ってくれなかった。宮地先輩は照れ屋だから、と俺は思い続けていた。そう思わないと可笑しくなりそうだった。でも今回のことで分かった。

「やっぱり宮地先輩は女の子のほうがいいんだろうな…。」
小さく、本当に小さく呟いた俺の声は真ちゃんにも届かずに風に流されていった。どうせ俺の恋なんてこんなものなんだろう。宮地先輩も気持ち悪いならはっきり言えばよかったのに。なんでOKなんかだしちゃったんだろう。期待させといて酷いだろ。もういいや、いつか宮地先輩に恋人が出来て、笑って送り出せればいい。最後ぐらいはいい奴で終わりたいな、と思っていたらあっという間に緑間の家に着いた。

「真ちゃん、ほら、着い…」
一瞬目を疑った。いるなんて考えもしなかったし、先に帰ってしまった俺を怒ってるんだろうな。そんなことを考えていたのだから。でもそこに彼はいた。綺麗に染まったあの髪に何度魅了されてきただろう、俺と同じ制服な筈なのに彼のほうが何百倍も格好よく見えた。あのつり上がっている目に映りたいと何度考えたことだろう。

「宮地先輩。」
会いたくて、会いたくて、仕方がなかった宮地先輩がいた。

「高尾、お前なに先に帰ってんだ。轢くぞ。」
いつもの笑っている目じゃなかった。真剣に怒っている目だった。きっとこんな目をさせるのは俺ぐらいしかいないだろう、そう考えたら何故か嬉しくなった。

「轢くとか言わないでくださいよー、別に宮地先輩を怒らせることはしてないっすよ?」
その通りだろう、俺が推しメンの話ばっかりする宮地先輩に怒るのは誰もが納得すると思う。でも宮地先輩が俺に怒る理由がないだろう。そう考えてたら急に宮地先輩に抱きしめられた。

「妬いてるなら素直に妬いてるって言え。勝手に帰るんじゃねえよ。」
自主練終わったらお前がいなくてガチで焦った。消え入りそうな声で呟く宮地先輩は本当に俺を心配してくれいたようだ。宮地先輩が俺を呼びながら学校中を走りまわったらしく、見かねた大坪先輩がお前の話聞いてぶすーっとしたから先に帰ったんじゃないか、と言われやっと気づいたらしい。

「宮地先輩がそんなに心配してくれたんすからもういいっす。でも俺だった妬くんすからね。」
悪いな、と俺の頭を撫で回す宮地先輩に笑いかければ宮地先輩も笑ってくれた。俺が素直に言っていればよかったのか、そうも思ったけど宮地先輩がパニックになるというレアな姿を見れたからよしとする。

「宮地先輩、月が綺麗ですね。」
届くか分からないこの言葉。でも今はこれを送りたいと心底思った。


(俺死んでもいいや。)
(え、宮地先輩知ってて…)
(当たり前だろ、轢くぞ)
((俺もいることを忘れないで欲しいのだよ))


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