10年前の俺達へ
「─お、幸村君来たな!」
「遅いぜよ」
「ぶちょおおおおおお! お久しぶりッス!」
皆、変わっていなかった。
……いや、見た目は変わった。10年の月日を経ているのだ。変わらない方がおかしい。
ただ、皆……
自分に向ける視線は、いつだって優しかった。
そしてそれは今でも、変わらない。
あの全国大会から10年経った今日。
幸村を始めとする立海レギュラー陣は、真田家で久しぶりに顔を合わせた。
「やあ、遅れてしまって悪かったね」
幸村は微笑んで、柳の隣の席に座る。
柳は、手にしていたグラスを机に置き、隣に座った彼を見た。
「仕事か?」
「ああ、急遽入ったブーケの注文に時間かかっちゃって」
「そういえば、幸村君は花屋を経営しているのでしたね」
柳の正面に座っていた柳生が、幸村を見て言う。
幸村は、着ていた上着を脱いで丁寧に畳みながら、頷く。
「念願叶ってね。小さいけど、そこそこ常連さんも捕まえて、最近ようやく安定してきたよ」
「幸村君らしくて素敵ですね。─今度、職場で飾る花を買いに行ってもよろしいですか?」
「喜んで花を選ばせてもらうよ。─そういえば、柳生は医者だっけ。似合いすぎるっていうかなんていうか…」
「まだ研修医ですがね。私も、念願が叶ってほっとしていますよ」
幸村と柳生が仕事についての話で早速盛り上がっていると、柳の隣に座っていた赤也が、我慢しきれない様子で身を乗り出し、幸村に言った。
「俺!! 俺、テニススクールの先生ッスよ!! 子供達に先生って呼ばれてるんッスよ!!」
「ねー、赤也がテニススクールでね。まあ、納得っちゃ納得だけど、意外っちゃ意外……」
「それどっちッスか!?」
「納得と言えば、ジャッカルとブン太、弦一郎だな」
赤也の突っ込みを無視して、柳は、幸村の正面に座る真田と、赤也の隣に座るブン太、そのブン太の正面に座るジャッカルに目をくれた。
ジャッカルは、父親のラーメン屋を継ぐべく、現在父親から修行を受けているらしい。
ブン太はパティシエになっていた。自営業だが、巷では人気のケーキ屋として繁盛しているようだ。
真田は家の道場を継ぎ、剣道の若き師範として、生徒に稽古をつけているらしい。
「親父がせっかく造った店だからな、潰したくなくてよ」
「まっ、俺は中学ん時から天才的に料理上手かったしな!」
「道場を守りたかったので、な」
3人とも、どこか誇らしげに言う。
ただ真田だけは、どこか照れくさそうに言っていた。そんな真田を、幸村はまじまじと眺める。
その視線に気付き、真田が問うた。
「……なんだ、幸村」
「……真田、また老けた?」
「………………………………」
「……─あーっ、そういえば、一番意外と言えば、仁王先輩っしょ!」
不穏な空気を察知した赤也は慌て、わざとらしくも大声で、自分の正面に座る白髪男を指差した。
「あー…仁王ね。まさか、俳優になるとは思わなかったよ」
「俺も、流石にそこまでは予測出来なかった」
「仁王先輩、柳先輩のデータに勝っちゃってるしwww」
「くくく、人生サプライズじゃけんのう」
「サプライズといえば、柳君も十分サプライズですよね。齢25で、IT会社の重要ポストまで登り詰めるとは、流石です」
「サプライズはサプライズッスけど、柳先輩ならやりそうだったし怖…」
「な に か 言 っ た か 、 赤 也 ?」
「…なんも無いッス」
そんな、それぞれの現状確認をしながら、皆楽しく飲み、過去を語り合って行く。
久しぶりに皆集まった事もあり、酒は自然と進んで行く。
*
*
*
「あはっ、で〜、あのがきんちょホントにムカつくんスよ〜。せんせーのおれにむかって〜」
「はいはい、それでどうなったんじゃ?」
「で〜…………う。はきそ…うおぇええ……」
「ちょおい待ちんしゃい!? ここで吐くんじゃなか!!」
赤也が虚ろな瞳のまま口を押さえ、仁王が珍しくあたふたする。
それを見た幸村は、笑いながら仁王に言う。
「こいつが酒弱いの知ってて、嫌がる赤也に無理やり飲ませたのは仁王だろう? ちゃんと最後まで面倒見てあげなよ」
「……いくらなんでも弱過ぎじゃ……。まあ良いぜよ。ちょっくら赤也を外の風に当てさせてくる」
「ああ、そうしたら落ち着くかもしれないな」
幸村と柳の賛同を得て、仁王は赤也を抱えるようにして、部屋を出て行った。
仁王と赤也が出て行った後、改めて、幸村は部屋を見渡した。そして、
「死屍累々……って感じだね」
「……主にお前と仁王の仕業だがな」
「え、違うよ? 皆、どんなにガブガブ飲んでも潰れない蓮二に対抗して飲んでこうなったんだよ?」
床には、真田、柳生、ブン太、ジャッカルがぐったりと倒れていた。
「蓮二、全く酔ってないの? あんなに飲んだのに?」
「むしろ酔いたい時に酔えないので困っている」
「うーん、これだけは蓮二に勝てないんだよなぁ」
幸村は呟きながら、グラスに残っていた酒をぐいっと煽った。
グラスを机に置き、暫くそれを眺める。
皆、久しぶりに会ったとは思えぬ程仲良く、温かかった。
10年前、あんな終わり方をしたのに。
幸村達3年生は、高校に入ってからはテニス部に入らなかった。
赤也は3年生になって全国大会に臨んだが、また決勝で負けた。
あの大会が、皆ずっと、引っかかっていた。
幸村にとってテニスは、心に絡みつく大きな鎖となり、前へ進む足枷となっていた。
「蓮二……」
「? なんだ?」
「10年前…あの大会で。負けていなかったらどうなっていただろう」
「…………」
「負けたのは…俺のせいだ。俺がいけなかった。俺はお前達に、癒えない傷を付けた」
「精市……」
「どんなに時が経っても、あの決勝の日が忘れられないんだ…。情けないだろう? 俺はまだ、10年前を引き摺ってる」
「………………」
「俺が…俺が、もっと強ければ。あの時、あの試合で勝っていれば」
勝っていれば。
何かを得られただろうか。何も失わずに済んだだろうか。
いや、勝っていても何も変わっていなかったのかもしれない。
そもそも、自分の考え方が間違っていたのだろう。
勝つことが全て。そんな考え方。それは、立海の皆を縛っていた。
それを、ずっと後悔していた。
「すまない……すまなかった、皆……」
そう口にしていると、自然に幸村の視界はぼやけてきた。
「あれ……ふふっ、アルコールで涙腺緩くなってるのかな」
幸村が苦笑しながら目元を拭うのを見た柳は、静かに自分のグラスに焼酎を注ぎ、それに口を付けた後、ふと笑った。
「……お前も、歳を取ったな」
「……そうかもね。やっと、お前達の前で泣けるようになった」
「俺は、あれはあれで良かったんだと…あのおかげで、今の俺達がいるんだと思っている」
柳の呟くような言葉を聞いて、幸村はフフッ、と笑った。
涙を拭きながら微笑む。
柳も微笑み、幸村のグラスに酒を注ぐ。
二人は相手のグラスに自分のグラスを軽くぶつけ、それをくいっと飲んだ。
飲んだ後、幸村は床で寝込んでいる仲間を眺めた。
そして、また目に涙を滲ませながら微笑み、
「……また、こうしてお前達と会えて良かったよ」
小さな、とても小さな声で呟いた。
立海の皆さんの、10年後を勝手に妄想して出来上がった話。
全然話せてないキャラとかいてごめんなさい…orz
なんか、大人になった幸村君が過去を後悔してる事を、
酒に酔いながら泣きながら話してる所を書きたかっただけです、ハイ。
…後から考えたら、新テニの合宿ガン無視ですね、この話。新テニとか知らないです。そんなものは無かった…
お酒の強い順は、単純に同じモノを同じ量飲むと、
柳→幸村→仁王→真田→ジャッカル→柳生→ブン太→赤也とかであってほしい。
柳さんはザル。どんなに飲んでも常に素面。
幸村君や仁王は、普通の人よりは全然強いけど、柳さんだけには勝てない。
ジャッカルら辺は、一般人レベル
赤也は激弱い。だが仁王ら辺に飲まされて、直ぐにダウン。次の日二日酔いにはならないけど、記憶がぶっ飛ぶタイプとかがいいな。
幸村君は泣き上戸であれ!
ちなみに赤也は笑い上戸と怒り上戸を交互にで!うっざいwwww