Dream novel*short



RUN

あんたはいつも前を歩いてて。
私は自分でも気が付かないうちに。
あんたの背中を追っていた。



放課後は運動部の掛け声等が響き渡り、少し苦手だ。
それらが聴こえる度に、自分が陸上部にいた頃を思い出す。
陸上部の短距離走でエースとして活躍していた頃の自分を。

私はそんな考えを頭から必死に振り払いながら、男子テニス部のコートの横を通り過ぎた。
帰り道は、ここを通るのが一番近いのだ。
と、そこで立ち止まり少し戻ると、コート内に立っていた幼馴染みを呼んだ。
「─手塚。あんた、肩どうなんだ?」
「○○(苗字)か。問題ない。後少しで、部活にも復帰して良いようだ」
「─そうか」
「ああ」

手塚は、もう話は終わったとばかりにランニング中の部員達に視線を戻した。
「……………………」
私が黙ってそれを見ていると、
「……まだ何か用か?」
手塚が、眉を潜めながらこちらに向き直った。
「あ、いや……─部活、見学してても良いか?」
「ああ。邪魔をしなければ構わない」
手塚の許可がおりたので、私はフェンスに手を掛けてコートを見ていた。

楽しそうにボールを打つ人々。
(部活……か……)
気が付くと、自分の左足に目が行っていた。
私は慌てて顔を上げ手塚の方を見た。
「───っ、」
無意識なのか、手塚は自分の左肩に手をやりながら部員の練習を眺めていた。
その姿が痛々しくて、息が詰まる。
私は幼馴染みということもあり、前に肩の話を手塚から聞いた。
テニス一筋の彼から一時的とはいえそれを取り上げるなど、死に等しい宣告に思えた。
だが、手塚は挫けずに部活を続けた。
本当は自分も打ちたい筈なのに、彼は部員達をちゃんと指導していた。
それは、部長という責任ある立場にいたから……というのもあったのかもしれないが、
それでも思わずにはいられなかった。
私と大違い──


「─お疲れ様」
「ああ、ありがとう」
部活が終わり、私は手塚と一緒に帰っていた。
隣を歩く手塚は、私と同じ思いをした仲間の筈だった。
だが手塚は立ち止まらずに歩き続けた。私は立ち止まってしまった。
きっとそれが、私達の大きな違い。
「手塚は強いよな……」
私が呟くと、手塚は怪訝そうに顔をこちらに向けた。
「テニスの選手にとって大切な利き腕の肩を怪我したのに、負けずにそれに耐えた」
「俺は、強くなどない」
「強いよ。いつもあんたは私の何歩も前を行く。あんたの見る世界を、私も隣で見れたら……いつもそう思う」
「それならば、お前も歩けば良い。─その足は、もう治っているのだろう?」
手塚は言いながら、私の左足に視線を向けた。
「……私はあんたみたいに強くないから。もう、あの頃みたいには走れない」

私も、手塚と同じく怪我を負っていた。
ある日突然、歩道に車が突っ込んで来て、大怪我を負った。
大切な、走るのに大切な左足も骨折した。
治るまでに数ヶ月を要し、それから少しの間も安静にしていなければならなかったので、部活に出られない日々が続いた。
ブランクが長過ぎた。
左足が治った頃には、びっくりするほどタイムは落ちており、実感した。
もう、あの頃の自分には戻れない。

「─部活、止めたらしいな」
手塚が、正面を向きながら言った。
「……もう、走れないから」
「治ったんだろう?」
「私には、今の自分と向き合う勇気はない。─走りたくない」
私が言うと、隣を歩いていた手塚は突然立ち止まった。
そして、肩に掛けていたラケットバッグからラケットを出した。
「─手塚?」
手塚はラケットを見つめながら、言った。
「俺だって、しばらくラケットを振っていなかったから不安にくらいなる。だが、テニスを止めようとは思わない」
そして、私の方を見ながら、手塚は続けた。
「お前の陸上にかける思いは、その程度のものだったのか?」
「─っ、」
私は俯き、自分の足を眺めた。

走りたい。走りたくない。
怖い。
あの頃の自分に置いていかれた自分が。

「でも、私は─」
「俺は、テニスを止めない。」
「っ、」
「どんなに怪我をして動けなくなろうとも、最後の最後まで、ラケットを握る」
「……また私も、走れるのか……?」
私が恐る恐る顔を上げながら聞くと、
「走れる、じゃない。走るんだろう?」
いつもの仏頂面の幼馴染の顔があった。
「─やっぱ、手塚は強いよ」


私のこの勇気は、貴方がくれた
(今からでも走れば)(あんたの隣に)(並べるだろうか)





なんかこういう喋り方をするヒロイン好き。かっこいい←
なんか、二人は友情的な感じの関係かな、これを見る限りは。
でもこういう関係も大好きです((



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