◆『10年前の俺達へ』←この話の、後日談になります。
飲み会後日談─ブン太・ジャッカル編─
飲み過ぎた。
普段はどんなに飲んで酔っても、次の日には二日酔いなどにもならずに元気でいられる体質なのに。
「……ちっくしょ、あの3人強過ぎだろぃ……」
ザルである柳を始め、幸村と仁王の酒3強(?)に挑んで、無駄に飲みまくったせいだ。
頭がガンガンと内側から叩かれるように痛い。そして重い。
気を抜くと、痛みから逃れる為に眠ってしまいそうだ。…痛くて眠れるかは定かではないが。
運良く、今日はケーキ屋は定休日。
ブン太はそれを良い事に、昼過ぎまでベッドでゴロゴロしていた。
定休日といっても、買い物や下準備、新作スイーツの案を纏めたりなどやることは目白押しなのだが、何しろ気乗りしないのだから仕方ない。
「あー……楽しかったなぁ」
昨日の飲み会を思い出す。
久しぶりに皆で顔を合わせた。
中学生の頃の様に皆でじゃれ合い、遊んだ。
だが、そうする毎に、ああ、もうあの頃には戻れない─という感覚も込み上げて来て、切なくなった。
自分が、こんな感傷に浸る日が来るとは……
ブン太は、それが少なからず衝撃だった。
ムードメーカー的存在だった自分は、もっと楽観的に考えられるものだと思っていた。
自分の事も分からないなんて、な。
ブン太は、ベッドでごろんとひとつ寝返りをうってから、鼻で笑った。
右手に、スマートフォンが当たる。
なんとなくそれを手に取り、電話帳を開く。
無性に、誰かと話をしたかった。声を聴きたかった。
無機質な文字列を流して行くと、ふと、一つの文字が目に留まった。
……片仮名だから、目についただけだ。
そう自分に言い聞かせながら、その片仮名の名前の人間に、コールを送る。
出ろよ。俺は今、話がしたいんだよ。こんなに寂しいんだ。
なんで?なんで。
昔の仲間に久しぶりに会って、感傷的になってるから?
……いや、ただの二日酔いの男の絡みだ。
俺は、酔ってるから誰かに絡みたいんだ。
適当な理由を付けながら、コールを何度も聞く。
なんで出ないんだ。あの頃は、すぐに俺の相手をしてくれたのに。
あんなに楽しい日々だったのに。
時が経ったから?
もう、戻れない?
「ジャッカル…………」
勝手に、頬を何かが流れる。
久しぶりに会った皆は温かかった。
だが、皆の今の生活の話を聞くにつれ、もう遠い世界の人間同士なんだ、という気がしてくる。
自分だってそうだ。
こうやって自分の店を持って、経営して。
こうやって、大人になるんだって、いつまでもあの頃のままじゃないんだって、あの幸せな日々に囚われたままの自分の心は、もう遠過ぎて取り戻しには行けなくて、どんなにあの頃に戻りたいと思っても、皆前に進むし、自分も前に進むし、時もどんどん先へ進むし……もうどうすればいいか分からなくて─
「はい、もしもし」
突然、懐かしい声が耳元で聴こえる。
昨日も聞いた筈なのに、とてつもなく懐かしく、温かい声。
「……出るの遅ぇよ、バカジャッカル」
「はぁっ!? あのなぁ、俺、今仕事中! 親父に頼んで、5分だけ抜けさせてもらってんだよ!」
懐かしいけど聞き慣れた、心地良い声が、重かった頭に響く。
ブン太はくくっ、と笑いを噛み殺して言った。
「わりーって。俺、今日店が定休日だからさ。そっちのラーメン屋に食いにいってもいいだろぃ?」
「……泣いてたのか?」
「─え?」
ふと静かな声で聞かれ、思わず聞き返す。
するとジャッカルは、少し照れ臭そうに言った。
「……いや……なんか、声がちょっといつもと違ったっていうか……まあ、違うなら良いんだけどよ。─いいぜ、飛びっきり美味いモン食わせてやるから来いよ」
「…………………………」
それを聞いて、ブン太は黙り込んだ。
遠い世界の人間同士?
それ、誰が言ったんだ?
こいつは─ジャッカルは、あの頃から変わらずに、俺の事を心配してくれ、優しくて、一番に俺の思いに気づいてくれて……
他の皆だってそうだ。
どんなに違う道を行こうが、昨日みたいにああやって集まって、皆で楽しく騒いで……
どんなに時が経ったって、仲間は仲間だ。変わらない。
俺が大好きで、一時の夢を一緒に目指した、一番の仲間だ。
そう思うと、ブン太は思わず笑ってしまった。
「……ぶっ」
「……はぁ?」
「いや、わりぃ、ジャッカル。まだ昨日のアルコール、抜けてねーのかも」
「……ああ、昨日は散々飲んだからな……つか、俺は飲まされたんだけどよ……俺も、まだちょっと頭痛ぇよ」
それを聞いて、何故だか更に笑えてくる。
「やっべぇ、俺、ホントくだらねぇ事で悶々と悩んでた!」
「は、はぁ……そうか」
「お前の声聞いたら、解決した!」
「そりゃ……良かった」
「俺、マジでお前らの事大好きだわ!」
「…………? まあ、俺も立海メンバーの皆は好きだが……」
困惑気味のジャッカルの声を聞きながらブン太は頷き、勢い良くベッドから飛び起きた。
「よっし、今からお前ん家の店行くわ!!」
「お、おう、待ってるぞ」
「店のメニュー全部食い尽くしてやるから覚悟しとけよ!」
「マジかよ……ああ、中学ん時みたいにはすんなよ、一応お前ももう社会人なんだから、ちゃんとお代は……」
「勿論払うぜぃ!」
ジャッカルの心配そうな声に被せながら、ブン太は元気良く。
中学の頃から言っていたあの言葉を、大人になったブン太は、変わらずに自信満々に発した。
「……ジャッカルが!!」
◆『10年前の俺達へ』←この話の、後日談になります。
第1弾は、ブン太・ジャッカル編。
ブンちゃん可愛いブンちゃん可愛い((
ジャッカルが後半からの出演になってしまったのが非常に残念。