Dream novel*short



『10年前の俺達へ』←この話の、後日談になります。

飲み会後日談─ブン太・ジャッカル編─

 飲み過ぎた。
 普段はどんなに飲んで酔っても、次の日には二日酔いなどにもならずに元気でいられる体質なのに。

「……ちっくしょ、あの3人強過ぎだろぃ……」

 ザルである柳を始め、幸村と仁王の酒3強(?)に挑んで、無駄に飲みまくったせいだ。
 頭がガンガンと内側から叩かれるように痛い。そして重い。
 気を抜くと、痛みから逃れる為に眠ってしまいそうだ。…痛くて眠れるかは定かではないが。

 運良く、今日はケーキ屋は定休日。
 ブン太はそれを良い事に、昼過ぎまでベッドでゴロゴロしていた。
 定休日といっても、買い物や下準備、新作スイーツの案を纏めたりなどやることは目白押しなのだが、何しろ気乗りしないのだから仕方ない。

「あー……楽しかったなぁ」

 昨日の飲み会を思い出す。
 久しぶりに皆で顔を合わせた。
 中学生の頃の様に皆でじゃれ合い、遊んだ。

 だが、そうする毎に、ああ、もうあの頃には戻れない─という感覚も込み上げて来て、切なくなった。
 自分が、こんな感傷に浸る日が来るとは……
 ブン太は、それが少なからず衝撃だった。
 ムードメーカー的存在だった自分は、もっと楽観的に考えられるものだと思っていた。

 自分の事も分からないなんて、な。

 ブン太は、ベッドでごろんとひとつ寝返りをうってから、鼻で笑った。
 右手に、スマートフォンが当たる。
 なんとなくそれを手に取り、電話帳を開く。
 無性に、誰かと話をしたかった。声を聴きたかった。
 無機質な文字列を流して行くと、ふと、一つの文字が目に留まった。

 ……片仮名だから、目についただけだ。

 そう自分に言い聞かせながら、その片仮名の名前の人間に、コールを送る。

 出ろよ。俺は今、話がしたいんだよ。こんなに寂しいんだ。
 なんで?なんで。
 昔の仲間に久しぶりに会って、感傷的になってるから?
 ……いや、ただの二日酔いの男の絡みだ。
 俺は、酔ってるから誰かに絡みたいんだ。

 適当な理由を付けながら、コールを何度も聞く。
 なんで出ないんだ。あの頃は、すぐに俺の相手をしてくれたのに。
 あんなに楽しい日々だったのに。
 時が経ったから?
 もう、戻れない?

「ジャッカル…………」

 勝手に、頬を何かが流れる。

 久しぶりに会った皆は温かかった。
 だが、皆の今の生活の話を聞くにつれ、もう遠い世界の人間同士なんだ、という気がしてくる。
 自分だってそうだ。
 こうやって自分の店を持って、経営して。
 こうやって、大人になるんだって、いつまでもあの頃のままじゃないんだって、あの幸せな日々に囚われたままの自分の心は、もう遠過ぎて取り戻しには行けなくて、どんなにあの頃に戻りたいと思っても、皆前に進むし、自分も前に進むし、時もどんどん先へ進むし……もうどうすればいいか分からなくて─

「はい、もしもし」

 突然、懐かしい声が耳元で聴こえる。
 昨日も聞いた筈なのに、とてつもなく懐かしく、温かい声。

「……出るの遅ぇよ、バカジャッカル」
「はぁっ!? あのなぁ、俺、今仕事中! 親父に頼んで、5分だけ抜けさせてもらってんだよ!」

 懐かしいけど聞き慣れた、心地良い声が、重かった頭に響く。
 ブン太はくくっ、と笑いを噛み殺して言った。

「わりーって。俺、今日店が定休日だからさ。そっちのラーメン屋に食いにいってもいいだろぃ?」
「……泣いてたのか?」
「─え?」

 ふと静かな声で聞かれ、思わず聞き返す。
 するとジャッカルは、少し照れ臭そうに言った。

「……いや……なんか、声がちょっといつもと違ったっていうか……まあ、違うなら良いんだけどよ。─いいぜ、飛びっきり美味いモン食わせてやるから来いよ」
「…………………………」

 それを聞いて、ブン太は黙り込んだ。
 遠い世界の人間同士?
 それ、誰が言ったんだ?
 こいつは─ジャッカルは、あの頃から変わらずに、俺の事を心配してくれ、優しくて、一番に俺の思いに気づいてくれて……
 他の皆だってそうだ。
 どんなに違う道を行こうが、昨日みたいにああやって集まって、皆で楽しく騒いで……

 どんなに時が経ったって、仲間は仲間だ。変わらない。
 俺が大好きで、一時の夢を一緒に目指した、一番の仲間だ。

 そう思うと、ブン太は思わず笑ってしまった。

「……ぶっ」
「……はぁ?」
「いや、わりぃ、ジャッカル。まだ昨日のアルコール、抜けてねーのかも」
「……ああ、昨日は散々飲んだからな……つか、俺は飲まされたんだけどよ……俺も、まだちょっと頭痛ぇよ」

 それを聞いて、何故だか更に笑えてくる。

「やっべぇ、俺、ホントくだらねぇ事で悶々と悩んでた!」
「は、はぁ……そうか」
「お前の声聞いたら、解決した!」
「そりゃ……良かった」
「俺、マジでお前らの事大好きだわ!」
「…………? まあ、俺も立海メンバーの皆は好きだが……」

 困惑気味のジャッカルの声を聞きながらブン太は頷き、勢い良くベッドから飛び起きた。

「よっし、今からお前ん家の店行くわ!!」
「お、おう、待ってるぞ」
「店のメニュー全部食い尽くしてやるから覚悟しとけよ!」
「マジかよ……ああ、中学ん時みたいにはすんなよ、一応お前ももう社会人なんだから、ちゃんとお代は……」
「勿論払うぜぃ!」

 ジャッカルの心配そうな声に被せながら、ブン太は元気良く。
 中学の頃から言っていたあの言葉を、大人になったブン太は、変わらずに自信満々に発した。

「……ジャッカルが!!」




『10年前の俺達へ』←この話の、後日談になります。
第1弾は、ブン太・ジャッカル編。
ブンちゃん可愛いブンちゃん可愛い((
ジャッカルが後半からの出演になってしまったのが非常に残念。



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