死が二人を別つまで

※明羅の狂愛
※学生時代




 俺が愛するのは兄さんだけだ。俺を愛せるのは兄さんだけだ。兄さん、兄さん兄さん兄さん兄さん。俺の為に笑って、俺の為に死んで、俺の為に泣いて、俺の為に壊れて。俺には兄さんしかいないんだよ。

 神だと、どこかの普通の人間が俺を称えた。なんでもできた。なんでもできなかった。俺が普通を語るとは滑稽だけど、普通ができないことができて普通ができることをできないだけだった。可能と不可能の線引きをした普通を恨むよ。何ができたって俺は特別に感じない。何ができたって俺は神だった。神とは何か。わからない。けれど一度、枠から外れれば待ち受ける孤独。俺は、どうすればいい。

「明羅、大丈夫。僕がいるからね。明羅の傍にいるからね。明羅は苦しまなくていいんだよ。」
 そう言う神の様な慈悲を持ち合わせた兄さんの苦しむ姿は心地好く俺を傷めつける。傷が足りない。なんでもよくできて、泣いたことなんかない。兄さんを殴ることで胸が痛い。痛くて死にたくなる。また兄さんを蹴れば苦しみで壊れそうになる。青に赤に黄に染まる兄さんの白い肌、赤や黄や白の兄さんの体液、深くて丸い兄さんの瞳、艶やかな兄さんの髪、柔らかな兄さんの睫毛、全部壊せば俺はいよいよ泣けるかも知れない。愛してるんだ兄さん。愛してるんだよ兄さん。痛いかい痛いね痛いだろう兄さん。俺の痛みがわかるだろう俺の愛がわかるだろう。生まれたことさえ恨むよ。この恨みを受け止めて兄さん。兄さんしか俺にはいないから、兄さんしか俺を救えない。
 人間を殴る重みが拳を壊してもよかった。拳が壊れたら道具を使えばいい。殴って切って叩いて、血が滲む。
「明羅…。」
 目の前に転がる小さい体躯。俺より一つ上の兄さん。その白い両手が俺の頬に触れて笑った。
「大丈夫だよ。」
 唇も小さい。血が滲んで腫れている。触れて噛み付く。死んでない。兄さんが死んだら困るんだよ俺は。痛々しい身体を抱きしめてまた痛みが加わっただろうに兄さんは笑った。
「お願いだ。兄さん。死なないで。」
 やはり俺は普通ではない。兄さんをころしたくなんてないのにころしてしまいたい。
「俺を一人にしないでくれ。」
 こんなにも辛いのにまだ泣けない。兄さんは笑いながら綺麗な涙を流して俺を抱きしめた。




110620
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