殺しの口づけを

※薄暗い






 少年は心に確かな刃を持っていた。暖かく、生臭い、嘘のように脆い愛だけを携えている。ある作家が愛の終着は殺人にあると言った。愛する者の命さえ、独占してしまう。それを中庸に叶えるのがセックスなのだ。
 それを知ってか知らずか、少年はそれを体言して男を床に押し倒した。男は抵抗や拒絶をまるで知らないようで瞳孔さえ揺らさない。まるで死んでいるようだ。少年は男に殺意を抱きながら欲情していた。酷くいびつな殺意は涙になって、悲しくも未熟な欲情は優しい手の平になった。
「藤くん、悲しいことがあったんだね。」
 死体の男の優しいだけの言葉が響いた。笑顔のような顔を作ってがらんどうの瞳に少年の影は飲まれた。
「そうだな。悲しい。」
 少年は死体には到底届かないと知っていて笑った。自嘲。愚かだ。悲しいのに目の前の死体が死体で悲しいのに、笑っている。殺して終いたい犯して仕舞いたい刺したい挿したい蹴り飛ばしたい抱き締めたい切りたい舐めたい裂きたい噛みたい抓って繋いで握って暖めて離したくない求めて欲しい。
「こんなに悲しい気持ちがあるなんて知らなかった。」
 死体は微笑んだ。慈しむように懺悔するように蔑むように憐れむように何でもないように愛を語るかのように。どれも痛々しくて嘘臭い。それさえ少年の胸には愛憎が溢れて責め立てる。苦しくて仕方ない。死んでしまうかもしれないと思った。ならやはり死体をも殺して潰えてしまえ。
「藤くん。大丈夫だよ。君が思っているより世界は単純で、易く渡れてしまうから。」
 綺麗事を吐いた死体顔が濡れた。少年が濡らした。殺意を込めて、欲望の為に、恋情に浮されて。
「そうだな。」
 少年は心にもない同意をして死体の吐いた息を唇で引き取った。





110222
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