不繋線
※中学生 ※善徳→→→→美徳
「どうして弱い癖に喧嘩ばかりするのよ。」
セーラー服が似合う美徳が消毒液で俺の頬を拭きながら言った。 仕方ないだろ。あいつはお前を汚い目で見ていたんだ。俺は許せなくて、お前を守りたくて戦うんだ。
「兄さんの怪我を見てたら私まで痛いのよ。」
双子の意志疎通なんて存在しない。同じ母体から生まれただけで別々の細胞を持った、俺の妹。顔がよく似ているけどそれ以外は何も似ていない、俺の妹。 ずっと同じだった身長は中学に上がればばらばらの成長を遂げて、今は美徳の体重すら知らない。
「美徳。」
声も性格も好みもこんなに違うのにどうして不器用な距離に生まれたのだろう。突き放すことも抱きしめることも叶わない。どうして胎内で一つになってしまわなかったんだろう。生まれては、一つになれないのに。
「ありがとう。」
優しい指、惨めな指。暖かい血、悲しい血。濡れた唇、切れた唇。緩やかな瞳と濁った瞳。全て一対で、一緒で一括で一時も離れることができない同じ人間だったら、ずっとお前は俺のものでありつづけたのに。唇から溢れるのは距離を侵さない言葉、手は最後に触れた子供だったお前を覚えている。次に触れたら、俺は距離を侵してしまうだろう。
「お礼なんてやめてよ。兄妹なんだから。」
美徳は照れ笑いをして俺の頬に絆創膏を貼った。痛みが鈍い。何よりも目の前の美徳を抱きしめたかった。汚いのは俺か。わかってる。でも他の誰も許したくない。
「もう喧嘩しないでね。」
一層、一つで、なにもかも一つだったら、この気持ちもお前と同じだったのに。
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