暗闇の真実

※「君の手で終わらせて」の続編
※未来捏造
※今までと比べものにならないほど暗いです
※くらすぎて本当にダメです
※暗い






 藤は努めて優しく派出須に家に来るか、と聞いた。派出須は簡単に頷いてそのまま藤の住むワンルームのマンションへ来ることになった。元より怪我は少なかった派出須は希望すればすぐに退院できた。精神的な要素での入院の勧めはあったが当人の同意がなくては咎める事は誰も出来ない。藤のマンションは派出須の住む1Kのアパートよりは広く、散らかった部屋だったが派出須は特にコメントしなかった。何がどうであってもよかったのだ。今の派出須には何も残っていないのだと藤は思う。眠っている時は白かった髪も艶やかな黒に戻り、派出須は時折不自然に笑う。
「狭いけど、適当にくつろいでくれればいいから。」
 テンプレート的な言葉で藤は派出須に気兼ねさせない様に告げた。派出須は白衣以外は黒い洋服しか持ち合わせておらず、黒髪に黒い洋服は葬式みたいだった。そういえば三途川千歳もずっと喪服のようだった、と藤は苦笑した。
 日は既に落ちている。藤はカーテンで夜とこちらを隔て、派出須が夜に死なないようにと配した。派出須に食欲の有無を伺えば意外にも何か食べたいとの返答があり、藤は夕飯の用意をした。腐っても料亭の息子の藤麓介は料理の基礎がある。器用さは皆無だから見掛けは美しくない。所謂、男の料理と言うやつだ。面倒な事は人一倍嫌いでも幼い頃からの整った食生活のせいで外食ばかりでは満足できない。結局は週の半分以上が自炊。藤は慣れた手つきで味噌汁を作り、魚を焼いて米を炊いた。何か食べたいと言った割に派出須は目の前にした料理に反応が薄く、藤くんはすごいんだね、と自虐でもするように言った。いつもと同じに作った筈なのに派出須との食事は藤の口に合わなかった。温かい料理が冷たく感じて口当たりも悪くてまずい。それを口にしても派出須はきっと反応を見せないだろうことはわかっていて、藤は何も言わなかった。派出須も何も語らず、結局その日は早々に眠りについた。
 藤のベッドを派出須に貸して藤は床で眠った。ワンルームの一人暮らしに人が泊まる備えはなく、藤はバスタオルを二枚被って寝た。派出須が死なないことだけを祈っていた。

 翌朝は寝坊が得意の藤が先に目覚めた。枕代わりにしたクッションの模様が頬に残っていた。床は硬く寝心地はお世辞にも良かったとは言えない。身体を起こせば白い人影が見えて安堵した。冷血の力が勝っている間は少しこの哀れな人間も安らかなのだ。藤はその安らかな表情に目を細める。生死を確認するように手を伸ばして肌に触れようとした、時だった。派出須はぱちりと目を開けて起き上がった。髪は白いまま、肌が欠け落ちた。
「病魔の気配がする。」
 ぽつりと言って派出須はベランダに出た。藤がそれを追ってベランダに向かう。派出須はマンションの下を覗き込んでいた。丁度真下にいた若い男が声を荒げている。黒い障気が上がって虫のような姿をした病魔が見えた。
「病魔だ。」
 派出須はそれを認識するや否や、何の躊躇いもなく4階のベランダから飛び降りた。藤はそれを追うこともできず玄関を飛び出して階段を駆け降りる。足がちぎれそうなほど跳ねて階段を5段は飛ばして降りた。マンションのエントランスを抜けた所で悲鳴が聞こえた。藤は飛び出す。ベランダから飛び降りた派出須は皮膚の隙間という隙間から冷血を溢れさせて見つけた病魔を貪り食っていた。黒い触手のように伸びた冷血は病魔に絡まり腐食させるように捕食する。実態のない闇が飲み込むように生々しく穏やかではない。先程まで病魔に罹っていた若い男は目の前の恐ろしい派出須の姿に腰を抜かしている。派出須の飼う冷血は病魔だけでは足らずに目の前の男に手を伸ばす。
「先生!やめろ!」
 藤は後ろから派出須を羽交い締めて男から引き離した。男はばたばたと醜い走り方で逃げる。冷血を制御できていないのだ。病魔を熟すにはかなりの精神力を要する。今の派出須の精神では病魔に食われるのがオチだ。藤にはそれがわかっていた。派出須は羽交い締めにされたままで病魔病魔病魔病魔病魔病魔と呪文の様に言った。病魔に侵されたままで言った。
 藤は中学生の頃、この派出須に同情さえしたし、憧れてさえいた。その憧れの真実は、この醜さだった。



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