君の手で終わらせて

※「さよなら、グッバイ、また来世」の続編
※未来捏造
※今までと比べものにならないほど暗いです
※くらすぎて本当にダメです
※死ぬとか普通に起こります
※報われない
※暗い






 世界を創造した神は人間を創造した。そして易く世界の終末を告げて今は姿を見せない。世界が終えるときまでオレは生かされるのだろうか。罪を犯しすぎた。人間一人が終えることなんて一瞬だった。何の為に欺き汚れて朽ちたのだろう。誰の為に殺して笑って死んだのだろう。オレは生きている。死んで神になったのに生きている。

「冷血が、感情を食べ切れないのです。」
 女子高生になった卑川操は実に可愛らしい声で言った。
「操は冷血を好きではなかったですけど、初めて冷血がいて良かったと思いました。」
 別段可愛らしく振る舞っている訳ではなくましてやこの状況を滑稽にするわけでもない。ただ事実を語るに卑川操の声は可愛すぎた。
「ハデス先生が壊れてしまう所だったのです。」
 まるで今が異常ではないかのような卑川操の口ぶりに藤は違和感を感じた。

 派出須逸人、三途川千歳、蛇頭鈍、伊賦夜経一の四人はとある罹人の情報を手に入れ、その元に向かった。罹人は長く病魔を赦し、欲望に溺れていた。命も惜しくはなかった。だが、人を殺すことが好きだった。四人は多くの病魔に対峙して来たが、殺人鬼と向き合ったことはなかった。甘かったのだ。病魔さえ、喰らえば、事は済むと思っていた。殺人鬼は人を殺すことが生き甲斐だった。一人殺して腕をもがれてももう一人殺し両腕がなくなってももう一人殺した。派出須逸人の少なく、確かで、愛をくれた人間は目の前で殺された。簡単に殺された。三途川千歳の代わりに死のうとしたが代われず、蛇頭鈍の代わりに死のうとしたが代われず、伊賦夜経一の代わりに死のうとしたが代われず、皆死んで、派出須は殺人鬼の病魔を喰らった。めいっぱい打ちのめし、病魔に生気を食われていた殺人鬼も死んだ。一番死にたがりで自己犠牲を生業としていた派出須逸人が死ななかった。恩師と友人二人の死体の横で派出須逸人は笑いながら泣いた。怒りながら喜んだ。感情が交錯して氾濫する。それを尻から喰らう冷血が追いつかず、枯れていた派出須は感情に満ち、いつの間にか健全な
姿を取り戻していた。自分を疎みながら誰かに憧れて、絶望しながら希望を抱き、悔やんでも果たせず、愛する気持ちを久しく思い出した。愛してくれた人間たちが死んで思い出せた。愛されていた。確かに愛されていた。有り余る愛を注がれ自分が今ここに居ることを知った。死にたいのに死ねなかった。愛しい人間たちが愛した自分を殺すことが罪だと気づいた。けれど生きたくはなかった。派出須逸人の狭い世界には誰もいなくなった。何を守れた何を救えた何を出来た。派出須逸人は終わった。

「麓介さんは、どうするのがいいと思いますか。操は操なりにハデス先生のことを考えましたがわからないのです。これは難問です。」
 卑川操は女子高生だった。平凡な女子高生だった。冷静を装った声は可愛らしいが、唇が震えていた。操は女子高生の傍ら三途川千歳に倣い、"事故"の始末をしているらしかった。今回の事を明日葉に伝えたのも操だ。幼い頃から頼りにしてきた人間が一度に死んだのに。藤は操が現在あの父親とどんな関係にあるか知らなかったが、操にとってはこれ以上ない出来事だろう。泣きそうな大きな瞳が可愛らしかった。反して藤は泣く気にもなれなかった。頭が痛い。
「泣くなよ、ガキ。先生はしばらくオレが面倒見るよ。最善かはわからないけど、善処する。」
 いたいけな少女が背負うには重過ぎる。今の自分なら、少しは何かできるだろうか。藤はそう思った。操は頷いて藤に従うと示した。
「麓介さん、ハデス先生を、よろしくお願いします。」
 操はお辞儀をして藤にそう言った。藤は内心なんの自信もなかったが任せろ、と言って手を振り待合室を出た。
 藤が病室を訪れたあのあと派出須は藤に殺してくれと詰め寄り、意識を失った。一気に冷血の咀嚼が追いついて、眠る派出須は白く枯木のような男に戻っていた。病室のベッドには白い男が眠っていて、その人間ではない姿が藤を安心させた。あの三人が死んだ今、派出須から病魔を引きはがすことができる人間はいないだろう。思い出だった男は藤の目の前にいた。藤はベッド横の椅子に腰を下ろす。届かなかった筈の手は簡単に届いてその割れた肌に触れた。地に落ちた。藤は派出須にこんな風に触れたい訳ではなかった。けれど触れて留めなければ跡形もなくなりそうで怖かった。藤の柔らかい手の平は砂を固めたような派出須の頬を包んだ。温かかった。生きて、居た。




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