さよなら、グッバイ、また来世

※「造花で手厚く葬って」の続編
※未来捏造
※今までと比べものにならないほど暗いです
※くらすぎて本当にダメです
※死ぬとか普通に起こります
※報われない
※暗い










 懐かしい名前から藤に連絡があった。明日葉郁は中学の同級生だった。藤の次に保健室を利用していた生徒で、優しく芯の強い男だった。同窓会からも二年が経っていた。久しぶりの連絡に藤は少なからず喜んだが、それも一瞬だった。
 伝えられたのは、派出須逸人、三途川千歳、蛇頭鈍、伊賦夜経一が"事故"に遭ったと言うこと。また、生き残ったのが派出須逸人だけだったと言うこと。
 目立ちこそしなかったが人の中心にいた明日葉は連絡係となっていた。藤に伝える声は震えていた。電話越しに伝わる友人の動揺に藤も煽られた。葬儀の予定は未定。元々が、身寄りのない人間たちだったから、多分学校や市の会館で行われることになるだろうと明日葉は言った。そして明日葉は派出須逸人の見舞いに行くとも言った。藤もそれで気づいて病院を聞いた。明日葉は聞かれることをわかっていてすらすらと伝えた。淀まず静かに、会話を終了した。
 翌日、藤は講義をサボり派出須の入院する病院に訪れた。入院病棟のナースセンターで派出須の名を告げればナースは一瞬顔を強張らせて部屋番号を藤に伝えた。病棟の角部屋個室。どこから入院費が出るのだろうとか野暮なことを考えていたらちょうど明日葉と鉢合わせた。明日葉は愛想笑いを見せてまずは挨拶をした。それから泣きそうな顔をして俯いた。
「僕にできることを考えてるんだけど、思いつかなくて。藤くんの顔を見れば、先生もきっと、嬉しいだろうから。」
 明日葉は本質を遠くから伝えて藤の手を握った。期待を込めて握った。それからまた笑顔を作って、後で卑川操が来るという情報を伝えて去った。明日葉は愛想笑いをする人間ではなかったと藤は記憶していた。同窓会であった時もそうではなかったと思う。引き攣った笑いが胸を締め付けた。そして思い出す。振られてた子供がのこのこ見舞いに行って果して派出須は喜ぶだろうか。藤の嫌いな面倒な感情がぐちゃぐちゃと溢れる。藤の記憶している派出須は死にそうだったのに、死ななくて、派出須に捕われて苦しんでいた人間が皆死んだ。派出須は悲しんでいるのだろうか、そんな感情さえ病魔に食われ笑っているのだろうか。藤にはわからない。病院の白くて硬い廊下を進み派出須といういかにも偽名のような名前の掛かった扉をノック。
 返事はなく、扉を開ければ白い空間があった。
「失礼します。」
 清潔感たっぷりの部屋だった。ベッドが一つあるだけで角部屋なのに窓はなかった。白く居場所がわからなくなりそうな空間に、一つ影があった。藤は後ろ手に扉を閉めてその影に声をかける。影はゆっくり動いて柔らかく笑った。
「やぁ、藤くんいらっしゃい。」
 薬品の臭いにベッドに白い服。蘇る。再生。リピート。藤は派出須を枯木のような男だと記憶していた。白く、色素を失った男だった。だがどうしてか目の前でベッドに佇む男は黒く艶のいい髪を持ち、肌は潤い、眉毛も睫毛も綺麗に整い美しく笑っていた。あまりにも自然な人間らしく笑っていた。
「藤くんが来てくれるなんて思わなかったな。すごく嬉しいよ。こっちに来て座って。顔を見せて。身長も高くなったね。肩幅も立派だし、もう大人なんだね。今は大学生かな?藤くんは理数系が得意だったから大学もそっちを専攻してるの?藤くんは頭がいいからきっと僕より難しいことをいっぱい知ってるんじゃないかな。学校でどんなことを習うの?教えて欲しいな。友達は?何をして遊ぶの?あ、藤くんは昔から女の子に人気があったし恋人なんているのかな?どんな子なんだろう。想像つかないなぁ。藤くんの好みはお茶とお菓子くらいしかわからないからね。お菓子と言えば藤くんの好きだったおまんじゅうが今あるんだ。食べるよね。お茶も用意するしゆっくりしてね。なんならベッドで寝るかい?昔から藤くんはよく寝たからね。今も講義で寝たりしてない?サボってばかりじゃいけないよ?でも中学のときは僕が」
「先生。」
 その姿を認識するだけで精一杯だった。病魔に蝕まれているこの男は生きていた。わからない。これほどまでに饒舌だったとは藤の記憶にはない。藤は派出須の声を遮って呼んだ。そうすれば派出須は黙って目を丸くした。
「…生きててよかった。」
 漸く出た言葉はエゴイズムの塊だった。それを藤は自らの耳で聞き留めてから恥じたが派出須は特に反応を示さなかった。ベッド横の椅子に腰を下ろし派出須を見る。派出須も藤の顔を見て笑った。
「藤くんはいつも綺麗だね。」
「あほ。綺麗じゃねーよ。」
「そうかな、綺麗だよ。」
「普通にうんこするし鼻もほじるしセックスもする人間だよ。」
「それでも、綺麗だよ。」
 派出須は色の深い瞳を煌めかせ藤に言った。藤は記憶と重ねながら派出須を見ていた。藤が大人になる間に派出須は変わらなかったのだろうか。派出須は見かけだけ健康そうで、何かを隠すようだった。
「藤くんみたいな綺麗な男の人だったら僕でも抱かれたいよ。」
「…なんだよ、それ。」
 記憶とずれる。藤に生徒にこんなことを言う男だったろうか。藤は明らかに動揺した。久しぶりに見る見慣れない姿の男が事実、色っぽくさえ思えていたからだ。
「くだらない冗談言うなよ、先生。」
「くだらなくないし冗談でもないよ。僕は藤くんを綺麗だと思う。」
「あのな。オレは…」
 どう続けるつもりか藤はわからず口を開いた。そんな趣味はない、だとか、綺麗って言われたくない、だとか、彼女がいるから、だとか、色んな候補が浮かんでどれかを口にしようとした。
「そう、言えば、藤くんは僕を殺してくれるかい?」
 その前に派出須は美しく笑んで首を傾げた。髪の根本が一瞬白くなりすぐに黒くなった。笑っていて艶やかなのに死んでいるように派出須は居た。



101117
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