造花で手厚く葬って

※未来捏造
※今までと比べものにならないほど暗いです
※くらすぎて本当にダメです
※死ぬとか普通に起こります
※報われない
※暗い










 七日間かけて世界が作られた頃、光はなかった。光はないのに七日間という時間だけは明確でオレが生まれる前から時計はシニカルだった。赤い大地と青い海さえ暗く光が見えない。意識ないがきっとオレはその頃から遺伝子を引き継いでいる。暗闇に作られたから、きっと、光が怖い。光を嫌うのに嫌えば嫌うほどに光を模するのは皮肉か。世界が滅びそうにもない音が聞こえて覚める。黒髪が憎い。

 世界を作った七日間は現代に引き継がれ、もとは一日が人間の怠惰から二日に増えた休日が明日へと迫っていた。中学に通う様になって何度目の週末かも藤には見当がつかなかった。それほどに藤には一週間という時間が無限に続くように思えている。天体を模した名前の七日は儚い。
 さようなら。また明日。
 過ぎた所から崩れて消えていく時間は何故か続くとみんな単純に思っていて、水の大切さを知らない先進国のことを思った。あるから、ない辛さがわからない。藤だって平均的な成長を遂げたローティーンだ。深く時間などを考察することもなければ世界を疑うこともない。だが藤の目は疑いを孕んで、男に向けられていた。男は養護教諭だった。薄い膜を剥いで世界に現れた危うい存在がそれだった。生きてすらいない、その男に藤はいつの間にか囚われて殺されている。それは思春期によくある好奇心もあったろう。けれど大部分は藤の自虐心からだった。あの男を愛せば、その友人たちの様に苦しむことができるだろう、それを藤は本能的に望んでいたのだ。その薄い感情がいつの間にか肉付いて捨てきれなくなったのが中学三年生の頃。進路、受験、卒業の三拍子がいやがおうでも時間というものの限りを見せて、男との距離を知った。遅かった。男は藤の心を蝕み、藤はそれを飲み込んだ。どういった状況なら、どういった設定があったら言い出せただろう。社会や理念、常識、立場、性別、年齢、たくさんの壁が阻んでいる。どれもを払う術を藤は知らない。そして何よりも男
は藤を愛してなどいないことは明らかだった。
 一度、藤は男に気持ちを伝えようと思った事があった。男が養護教諭として赴任して一年、藤は誰より保健室に居た。その日は特別、男は暗く、死ぬことさえ厭わないようだった。だから藤は、口を開いた。その腕が枯木の様な男を捕らえて繋ぐ、そしてまやかしの様な鼓動に胸が痛む。好きだと言う。藤は男に好きだと言った。男は笑って、そうだね、と返事した。あしらわれたのか聞いていなかったのか、いつも聞いていなかったのか。藤には正しい判別ができなかったが、わかったのは終わったということだった。
 よくある初恋の皮を被った気持ちを卒業と共に捨てた。教師と生徒、男と男、人間と死神。すべてが藤の気持ちを間違いだと、教えた。間違いを侵さなくてよかった。そう思った。藤が心底そう思ったのは高校に入り彼女ができた時だった。柔らかく甘い肉の女だった。あの男とは全く似つかない女だった。藤の身体は女と重なる為にできていて、男相手ではこうはならないことを悟った。よかった。本当によかった。オレを振ってくれてありがとう。先生。藤の自虐心は薄くなり、その自由さが縛られることはなくなった。高校を卒業するまでに彼女は何度も変わり、決まってついていけないと言われて振られても縛られるつもりはなかった。悩み抜いた進路は一先ず平凡な大学に進学することにして、結納や後継ぎについては家を出ることで逃れた。藤は至って平凡な成年になった。
 あの男に振られて5年。たまに思い出しては苦い。あの頃からモノクロームだった男の姿を藤は鮮明に思い出せた。身体を知っているかつての彼女たちの顔は一人だって思い出せないのに男の顔は鮮やかだった。笑えば怖い、悲しみを見せない、怒ると美しい。皮膚がかけおちてしまいそうでいつも、泣きそうで死にそう。思い出せるのに手はいつだって届かない。もう今は、教師と生徒という肩書きすら、ないのだから。


101117
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