失うだけで報われる
※昔話
オレは酷いだろう。なぁ、先生。オレはどうすればアンタが泣くかわかってるんだ。どうすればアンタが傷付くか知ってるんだ。アンタを傷付けて愛を量ってる。ただの生徒のオレをどれだけ愛してるか。信用できないんだ、言葉だけじゃ。ねぇ、先生、アンタはこんな体になったオレを叱るかい? 「受け入れるな、派出須くん!」 体の中から火種が広がって燃える。熱いよ熱い。熱に焼かれて乾いた皮膚が割れた。髪は根本から嗄れていく。 「派出須くん!飲まれるな!そんな病魔に飲まれるな!」 熱くて水分がない。人体は水でできているらしいから水がないオレはきっともう人間じゃない。煩わしい感情と一緒にオレを食べて欲しい。消えたかった。だって、ほら、そうしたらアンタは泣いてくれる。他の誰が何を言ってもアンタだけが泣いてくれればいい。可哀相なオレを見て、囚われてほしい。ちっぽけなオレにはこれしかないから。 「やめろ!派出須くんから離れてくれ!お願いだ!わたしの生徒から離れろ!」 先生、綺麗な顔で泣いてくれるんだね。オレの為に無駄な願いを叫んでくれるんだね。オレは酷い。人間ですらないのに。 「わたしの生徒を殺さないでくれ!頼む!やめろ!やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ」 大丈夫、先生。オレはきちんと感情を失ってアンタに恋慕したり寂しく思ったりしないいい化け物になるよ。次に会うときにはきっとアンタを好きという感情もなくなってるから、安心して。 「派出須くん!派出須くん!しっかりしろ!派出須!」 せんせい、あいしてくれてありがとう。おれはばけものになります。だからもうあいさないでください。あんたがすきでした。
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