未死感

※経一語る





 あなたらしくないわ、なんて鈍ちゃんはらしくない表情で笑った。そして涙でぐちゃぐちゃになった汚いオレの顔を胸に抱くのだ。大丈夫、逸人はきっと助けられるから、と。
 逸人は誰よりも弱かった。だから強くなりたがった。手に入れたのは強さなんかじゃないことにも気づかないのか愚かさ。そんな選択をした逸人を作ったのは誰だ。オレがもっとあいつをしっかり掴んでやれればそんなことにならなかっただろう。鈍は泣くのが苦手で誰よりも逸人の決断に心を傷めていたのに笑っていた。千歳ちゃんは逸人を救えなかった無力を悔いて自分を殺そうとさえした。けど逸人はそれを知らない。感情を食われ、人の気持ちが見えない。なんだよ、それ。逸人のいうみんなを守りたいの意味がわからない。みんなって誰だよ。そこに少なくともオレも鈍ちゃんも千歳ちゃんも含まれていない。だってオレたちはお前のせいで真っ当ではなくなったしお前の為に死にたいんだ。お前が泣きながら笑うからその息の根を止めたいんだ。この拳があの細長い男を殴っても痛みはなく、笑う。逸人は全部なくしてしまった。始めから持ってなかったみたいに十全であるかの様に振る舞って、死んで行くのだ。
 乾いて死んで行く。
 夜中に目が覚めて泣いていた目の回りの塩がぱりぱりと落ちた。ノックが聞こえて顔をあげれば鈍ちゃんがホットミルクを二つ持って来た。汚い顔ね、なんて言ってカップを差し出す。温かい。まだ、生きてる。





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