セルロイドを嘆く

※猟奇的
※藤→→→→→→逸





 死んでしまいたいと思えば総てがひび割れた皮膚から流れ落ちそうだから堪えるように努めている。男は人の涙を知らずに誰かを守れた気でいる、ひどく偽善的で自己満足の塊なのだ。それしか知らずそれしかいらないから、周りが見えない。オレが例え目の前で泣いても男は表面的な涙を認めることしかできず本質的な涙を知ろうともしない。オレは男にとって壁と同じく何とも変わらず、特別ではないからどれだけ願っても伝わらず、その皮膚の温度さえ伝わらない。その痛々しさがこの両目を奪うのに男はそれを優しく、時に煩わしそうに拒絶して、宇宙ほどの愛を知っていると錯覚しながら寂しい言葉ばかり吐くのだ。
 そう言ったわけから、不変で不毛で不満ばかりの皮膚の下に結局人間らしい熱くてドロドロしたものが流れている。男はセルロイド製。燃やせば溶けそうな男で、オレは男に焦がれていた。その瞳が嫌いで悲しいくせに笑い幸せだとしか吐かない口が嫌いで優しさを振り撒くフリをする人間味の無さが嫌いだった。だってそんなの、どうしたって敵わないじゃないか。ないものを叶わないじゃないか。だからオレが仮病を使って心配の真似事をする男を勾引かしても揺らぐことはない。
「藤くん。」
 強引に首を掴んですっかりオレの臭いの付いた布団に男を縫い付けて首の骨を指の谷で押さえ込み胸に跨がりひび割れた皮膚に見上げさせる。窓から射す光が男を照らすことだけを拒絶して、オレは体重のやり場がわからず無遠慮。男は喉が潰れない構造らしく冷静な声でオレを呼ぶ。
「どうしたの、しんどい?」
 その優しいフリをする声が嫌いで唇に噛み付いたこれがなくなれば男は黙るだろうか。薄くて膨らみがなく砂を噛む様に渇いている。まずくて無味。臭いも温度もなくて気持ち悪い。男はまるでオレに殺されても死ぬみたいに両腕を垂らしたまま仰ぎ唇をオレに与える。歯を差し込んでセルロイドの唇を剥ごうとすれば血の味がして鼻が熱くなった。痛みなんてないみたいに男は見上げたまま笑わなかった。目がなくなりそう。
 嫌だとか痛いだとか怖いだとか拒絶だとか、なんだっていい。犠牲にしたものがあんたはデカすぎる。オレが何を言っても欠けたものは埋められないし正当に受け止められない。だからセルロイド。人間じゃなければ、答えがなくても諦められたかも知れない。でも血の味がする。歯がぐいぐい食い込んで唇を破く。なのにあんたは冷静で、笑わない。





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