ロブラビル

※経←鈍っぽい










「結婚しよう。」
 初めてそう言われたのはいつだったかしら。確か法律が結婚を認める前だった。あの時はあなたも子供だったからその浅黒い肌を赤くして一生懸命だった。狡いわたしはその腕を掴まず先立った。することがあるのよ。どうしてもあの憐れな人を、憐れだと気づかせたいわ。
 経一のプロポーズを尽くかわしながら美容室を経営するに至り、なあなあで同居。本当によくない。けれど経一はどんな男より馬鹿で誠実で信用できる。だから用心棒という肩書きを与えておいてあげる。
「嫌よ〜。あなた粗暴だもの…。」
「改めるさ。」
「それに童貞には興味ないし。」
「鈍ちゃん以外に興味ねぇんだよ。」
「粗チンにも興味ないし。」
「粗チンじゃねぇよ!」
 誰よりも真っ直ぐで馬鹿で素直で愛に溢れているあなたが実は怖い。
 私の細い腕を経一の太い腕が掴んで逃がさない。私の応えはわかっているのに離さない。
「結婚したら、逸人と三人で暮らそう。」
「………。」
「いつまでも、幸せに。」
 ほら怖い。
 なのに優しいあなたは力尽くさず私を奪おうとはしない。同じ家で暮らすのだから幾らでも私を殺せたはずだし私を泣かせられたはず。けど優しいその手は女の肌さえ知らない。
「経一がかわいい女の子だったらよかったのに。」
 そうすればきっと、私はあなたを泣かせてあなたを奪えた。
 ばかだわばかだわ。同じ闇を見つめているくせにばかで優しくて、あなたってとても怖いのよ。






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