ストラスゼノス

※逸→三途川で藤→逸











「あんた、オレが怖くないの。」
 鮮やかだった少年は褪せ、曇った。私の手は小さく、少年は渇いていた。心が渇いていた。その身が滅びても感情を殺されたい。つらいだけの世界だからなにも感じたくない。少年は病魔に心酔していたし病魔にしかわかりあって貰えないと思っていた。弱い心だった。私はなす術なく、泣くような物分かりの良さを持ち合わせておらず、少年をきつく殴り、叱り、奔走し、説得し、教え、学び、きつく抱きしめた。少年は病魔を克服しこなす術を身につけたが、愛はなにひとつ理解しなかった。そこだけが戻らなかった。なのに真似事のように私に視線を送る。私の手を取り恋人を気取りたかったことも知っている。だが私は物分かりの悪い教師だったから、生徒の気持ちを踏みにじり、手を叩いた。耳を焦がした熱い言葉も軽く受け止めて感謝だけを述べた。自分を愛せないお前が、誰に愛されているかわかっていないお前が、愛を唱えるなんて滑稽じゃないか。


「毎日、藤くんがベッドを利用してくれるんです。」
 感情論ではなく常識のズレた生徒はいつの間にか教師となり生徒に慕われている。身の丈は元より私より大きかったがこれほどひょろひょろと伸びるとは思わず、見上げる首が痛い。失った健常すら彼は惜しまず、人が畏れる姿を手に入れて逆に心地好いようだった。
 サボりの常連の藤麓介の名を聞いたのは彼を私の学校に招いて間もなく、それからも毎日その名をうかがうので妙に知識が増えた。生徒として決して褒められた態度ではない藤麓介がこの色無し男の生活の一部になっていることは確かな様で、それ以上慕われてはならないだろうと私は思った。
「藤麓介は昔の逸人くんに似ているね。」
 自分の気持ちに気づけず与えられたものを見れない。けれど何かを期待していて、手の伸ばし方を知らない。
「藤麓介は君のことを好きだろう。」
「……、…嫌われてはないと思いますが。」
「嘘をつけ。」
 その気持ちを知っている癖に知らないふりをしている。自分がされた時は泣いたくせに、同じことをしている。
「君は藤麓介と自分を重ねている、そうだろう。」
 彼は何も言わずない眉を寄せた。何年一緒にいると思っている。君のことなんて、私は見通せる。
「…僕は、先生を今でも。」
「嘘をつけ。」
 嘘じゃないです、とはっきり否定されたが聞いてはやらない。私は物分かりの悪い教師なのだ。
 自分を愛さない、ひとからの愛がわからない、なのに何故そんなことを言う。
「嘘じゃないです。先生がいいと言えば僕は」
 嘘をつけ!嘘をつけ!
 私が自分を愛せと言ってもわからないだろう!愛を知らないくせに、私がどれだけお前を愛しているかわかってないくせに、どれだけの人間がお前を愛しているかわかってないくせに!





100618
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