纏わる皮膜

※カップリング要素すらない







 薄い物が好きだった。ピザはクリスピー、味付けだって洋食より和食、携帯やテレビだって最新の薄型、唇も薄い方がいい、ゴムも薄い方がいい。そんな感じで薄い物を好む僕は人間同士の関わりさえ薄くありたく、うわべの薄い言葉を薄い舌で転がして、薄い関係を築いて、気付けばなくなる。それでいいと思っているし、それが楽だと知っている。
 彼は濃い。安っぽい茶髪の僕より髪は宇宙くらい得体の知れない黒さで少し心の中を覗けば見ていられない黒くて粘っこい不吉な感情が濃く濃く渦巻いている。僕には薄いプライドと薄い自信があって、彼がどうであろうと薄い舌を二枚にすればかわせるだろうと思っていた。
 足繁く彼の家に通い続ければ彼の感情がわかるようになった。無言で無表情、会話さえまともにできないし臆病な癖に自尊心が強い。僕が部屋に上がる様になって数ヵ月、僕が帰ると言うと彼は反応もなくゲームを続けるのだ。無言のクセに寂しいと言う彼の気持ちが見えて帰りにくい。居てやりたい気になる。彼は何も言わずじっと望むことも諦めている。可哀想だとは思わない。甘えている以外の何者でもない。才能があるクセに諦めて、将来があるクセに諦めて、本気にならずに諦めている。
 薄い皮膚を裂けば濃く密な精神が溢れる。彼とは薄い関係は築けないだろう。薄い関係から得られるものは薄く、役立たない。面倒が嫌いなのになんだってこんな濃くもやっかいな。僕は嫌いだった濃い、彼を離せずにいる。



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