諸手に余る

※文章が冴えない











「藤くん。気持ちは嬉しいけど僕は君の気持ちには応えられないよ。」
 この台詞を聞くのはちょうど二桁の数にだった。きっとこう言われるだろうとわかっていた。けれどその現実味のない人間に唇を寄せたいと思っていたし、言葉は口をついて出るものだから仕方ない。
「それはオレだからか、生徒だからか、どっち。」
 目の前の血の気のない顔は困った様に笑ってどっちもかな、と言った。そして白衣を翻しお茶を煎れるのだ。何もなかった様に。
「今日のお茶は抹茶が入ってるから少し苦いけど、藤くんの口に合うんじゃないかな。」
 いつもより幾らか濁った緑茶を湯呑みに注いで目の前に湯気が上がる。浮遊しているみたいに重力を感じさせない男はオレに微笑み掛ける。
 なぁ、先生。オレはアンタを諦められないんじゃなくて諦めさせて貰えないんだ。何度だって、オレの拙い告白を聞いて遮らず聞いて、きちんと返事をくれる。残酷だ。断りの返事さえも優しくて、変わらないでいてくれる。だから、また、零れてしまう。気持ちが溢れて零れてしまう。アンタが受け止めてくれるから零れてしまう。また、同じ応えがあるとわかっているから、また、アンタにフラれて優しくされたくて、言ってしまう。
「先生さ、オレが好きだって言わなくなったら寂しいだろ。」
 青い指が小さく揺れて深海を含んだ髪は重く、地に着いてないみたいな長い足が伸びて、かさついた唇が肯定する。胸が熱くなってそれを茶を飲んでごまかした。きっと次もぞろ目になる回数のあの言葉を聞くだろう。
 優しいだけの心が泣いているのだ。どう逃れても自分は酷い人間なのだと。



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