ベクトル
※prologueの続編
昨日少しゴタゴタがあって、わたしに彼氏が出来た。高木秋人。学年一の秀才で眼鏡のノッポ。わたしとは全く逆のタイプだし弱々しく見えるけど、実はカッコいい。 その彼氏に昼休み、早速呼び出しを受けて西校舎の一番端の昇降口へ。人気のないひんやりとした校舎は嫌いだったけど待つのが高木だと思えば気持ちは違った。 「ごめん、見吉。別れて欲しい。」 一言目に高木はそう言って頭を下げた。泣きたくなった。買ったばかりのリップを塗った唇を噛み締めてこのもやしを殴ってやろうかと思った。けど顔を上げ目を伏せる高木が思ったより真剣そうだったから堪える。 「なんで。昨日は好きって言ったじゃん。」 「あれは、友達っていうか…」 「でも付き合うって!」 「言った。でもごめん。」 あっさり認めるだけで否定をしない高木はきっとわたしに殴られるつもりで来たんだろう。また頭を下げて高木は黙った。 「意味わかんない…。なんで急にそうなんのよ。」 「…オレ、好きなヤツが居るんだ。」 その言葉で意識が遠退いた。高木に好きな人。ぐるぐると足が浮くような感覚に覚束無い。試合前の緊張とは違う体の震え、頭が滲んでしまいそうに痛んだ。 「なのに、わたしに好きって言ったんだ。」 「うん。ごめん。」 「誰なのよ、そいつ。」 「言えない。」 「なんでよ!」 「オレが勝手に…あいつを好きでいるだけだから、迷惑掛けたくない。」 高木があいつと呼ぶ相手がふと真城であることに気付いた。たぶん女の勘ってやつ。バカじゃないの、男同士じゃん。しかも真城には美保がいるし。 「……、……片想いなんだ。」 高木の顔が少し赤くなって見えた。それから小さく頷く。悔しい。高木にこんな顔をさせる真城が羨ましい。 「告白したの?」 「…してない。」 「じゃあ、いつするの?」 「…たぶんしない。」 「バカじゃないの。」 「バカです。」 わたしが聞くことも言うことも高木はきっと予想しているんだ。即答が返ってきて溜め息を吐いた。完璧にフラれたのに何故かそれほど腹が立たなかった。けど高木はきっとわたしが泣きわめいて殴るとでも思っているんだろう。 「なら別れない。」 わたしは高木が思った以上に好きみたいだ。 「は?だってオレは…」 「わたしだって、高木が好きなんだから…チャンスがあるなら頑張らせてよ!」 「でも」 「それに高木も真城に告白する気がないならわたしがいた方がカムフラージュになるじゃん。」 「でもオレはサイコーしか…」 「…やっぱり真城なんだ。」 高木が口を大きく開けてしまったと言う顔をした。してやったり。それから高木は口籠って何か言い訳を考えてるみたいだったけど構わない。 「もし、真城が高木を好きだって言ったらわたしは身を引くから。それまでは頑張らせて。」
見吉香耶、片想いの彼氏がいます、十五歳。
090325
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