僕らは若すぎた

※最→←秋
※50年後
※死ネタ
※色んな人が死んでる
※暗すぎる
※一切報われない










 シュージンが死んだ。
 去年死んだ香耶さんはガン、三年前に死んだ平丸さんは脳梗塞、五年前に死んだ服部さんは脳卒中、福田さんは早くに事故死したし、新妻さんは転落死。オレが人生で一番初めに人の死を認識したのはおじさんで、次にじいちゃんが死んだ。大人になってからはわかりにくい変化が両親の老いでしか計れなくなくなり、オレの長男が成人する前に両親も死んだ。いつの間にか生きている知り合いより死んだ知り合いが多くなった。オレと美保、シュージンと香耶さんは誰かの葬式の度に顔を合わせ、共に戦った友の話をしては盃を交わし涙ごと飲み込んだ。もう若いとはとても言えない皺だらけの手は震えてまともな絵すらかけなかった。自らの背後に忍び寄る死を断ち切り、間近であることを知りながら、その時が訪れるまでは確かであれるように笑い、笑い、そして美保に愛していると伝えた。
 そしてついに四人のうち、一番活気あった香耶さんがガンで死んだ。シュージンは葬式では泣かず香耶さんに有難うと声を掛けた。子宝に恵まれなかったシュージンは一人きりになり、美保とオレは一緒に暮らす事を提案したが香耶さんと過ごした家に居たいとシュージンは言った。若い頃から肉なんてひとつも付かなかったシュージンの体は年老いて更に細くなっていた。時々オレは美保とシュージンの家を訪ね香耶さんの仏壇に手を合わせた。シュージンはいつも仏壇に新しい花を生け、香耶さんの好きだった甘いお菓子を供えていた。
 死ぬことには慣れていた。死は誰にも平等に訪れるもので畏れる類いのものではない。だからシュージンは香耶さんを奪った死を憎まなかったし受け入れて、毎日香耶さんに手を合わせていたのだ。
 香耶さんの一周忌に三人で食事をすると決めていた。当日に連絡の取れなかったシュージンを訪ねれば、仏壇の前で座布団を枕に昼寝をするシュージンがいた。でも寝息はなく肌はどこか乾いていて、鼻先に蝿が止まっていた。シュージンは死んでいた。
 親戚の居なかったシュージンの一番近い友人としてオレが喪主になった。親父が死んだ時も喪主を務めたし、今までたくさんの人の葬式に出た。死を厭う気持ちはなく、安らかに故人が眠ることだけを望んでいた。
「高木秋人さんと私は亜城木夢叶として、漫画をかいていました。」
 シュージンは原作を担当しオレは作画を担当した。二人の夢を二人で叶えて二人の名前を世界に轟かせた。その為にオレは生まれてその為にオレは生きた。オレがそうだった様にシュージンもそうで、夢を見て夢を追い掛けて夢に生きた。最後に描いた漫画はもう20年も前だと言うのにファンも参列しての豪華な葬式となった。
「高木秋人さんは私の相方であったのと同時に一番の友人でした。」
 シュージンはオレを好きだった。言葉としてさえ聞いた事はなかったが、若い頃は好奇心と背徳感を楽しんでキスをしたしセックスをした。それでも互いの関係が変わることを無意識に恐れてなんでもない様に装い、シュージンは香耶さんとオレは美保と結婚した。シュージンは本当に香耶さんを愛していたしオレも美保を愛している。結婚して良かったし、美保との家族は何者にも代えがたい。
「高木秋人さんが居なければ、私はきっとつまらない人生を送り、嘆くばかりだったでしょう。」
 シュージンが居たから夢を見られたシュージンが居たから夢を追い掛けたシュージンが居たから夢を掴めた。
「高木…シュージン…は、オレの、一番愛した人です。」
 バカみたいな戯れと揶揄いを繰り返して、どうして一度だって言わなかったのだろう。男だからとか相方だからとかそんなものを飛び越えてシュージンはオレの全部だった。オレの知り合いが死ぬ前から、たくさんの人が死に続けていて、世界は死に慣れていて溢れていて、両親が死んだ時も泣かなかったのに、シュージン、シュージン、シュージンシュージンシュージンシュージンシュージンシュージンシュージンシュージンシュージンシュージンシュージン、お前が居ないとオレは死んだみたいだ。
 美保がオレの肩を抱いて代わりにに参列者に挨拶を続けた。
 そう、オレはシュージンが好きだった。戯れのキスが数を重ねたのは好きだと唇から声が溢れて仕舞わないように、揶揄いのセックスが激しくなったのは愛してるという気持ちを忘れてしまいたかったからだ。



100308
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