黒い喉

※「黒い家」の続編
※捏造すぎてどうにもならない








 病魔を運ぶのは簡単だった。あいつが察するのは病魔の発する障気に因ってだ。その障気を吸収できる体質の藤の血を受け継いだオレは病魔を人の多く集まる学校に持ち込んで渦巻く思念を見つけ病魔の種を蒔くのだ。

「やぁ、藤くん。そろそろ来る頃だと思ってたよ。」
 オレは罹人、派出須逸人を監視する為にまた保健室を訪れる。派出須はオレを疑うこともなくいつもの優しい声を掛けてお茶の準備をする。オレはいつものように応接用の硬いソファに座る。本当にオレが来ることを予想していたらしくあっという間に整い、目の前に置かれた湯飲みからは湯気が上がった。茶菓子にと、あられを出して派出須は向かいに座る。
「好きなだけ食べていいからね。あ、甘いのが良ければロールケーキを切ろうか。」
「…あんたは、」
 茶菓子の話を遮って口を開く。何を言うつもりだオレは。派出須は金色の瞳を丸く見開いて首をかしげた。言葉の続きを待ってオレを見つめている。
「もし…」
 同じ病魔を飼う者でも父親と派出須は違った。保健室は保健室らしい清潔感を保っていて空気は透明なのだ。派出須はバカみたいに優しい。というかバカで、常に誰かの為に生きていて、オレを甘やかす。オレは派出須を脅かすのに派出須は、オレを許すみたいに笑う。
「オレが…、すっげぇ悪いヤツだったらどうする?」
 ああらしくねぇ。派出須の顔が見れない。お茶を啜るが味はわからない。派出須は藤の家の敵なのだ。生気を集める為の病魔をああも消されては困るのだ。父親の言い付けで派出須から目を離すなと、できるだけ傍に居ろと言われた。そして弱点を探れ、信用させて取り込めと、いずれ、殺す事になると。
 けど派出須の出すお茶は美味くて綺麗に整えられたベッドは心地好く、派出須のいる日常が、派出須と過ごす時間が、堪らなく愛しいんだ。
「…それでも、藤くんは藤くんだからね。僕は責めたりしないよ。」
 ずきずき胸が痛い。派出須はわかってはないだろう。許される事じゃない。けど許してしまいそうなこの男が憎い。オレは家の為にクラスメイトや友達を傷付けた。本当はやりたくないのかも知れないけどやらなきゃならない。罪悪感から派出須に解決を委ねた事もある。父親に知られたら何を言われるか、殺されるか。
「悩み事かな?」
 人間離れした容姿の男は誰より美しく見える。
「…もしもの話だっつの。」
 腹の中の病魔がどこかで思念を感じ取り鳴いた。



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