黒い家

※超捏造です。
※藤、黒幕設定。
※もはや藤逸とかそういうレベルではない捏造。













「ハデス先生、また明日。」
「はい、また明日。」
 あの教師の笑顔は優しい。意識して笑おうとすれば不器用さが発揮されてアカデミー賞も真っ青なホラーを作り出すのだが、慣れた生徒に対する受け答えは穏やかだった。
 病魔を身体に住まわせ病魔の能力を借りる、罹人。派出須逸人はその一人だった。咀嚼を能力とする病魔は珍しい。どんな種族のものでも同胞を食らい生きる事は極限でなければ起こりえない事象である。その病魔を呼び出した派出須逸人の思念がどんなものであったからは未だわからない。
 町のはずれにある藤家は表向きは茶道の家元だった。広い敷地に建てられた日本家屋には三世代の家族と家政婦二人と男弟子三人が暮らしている。賑やかに思える家の空気は重く淀んでいて、常に病魔の気配があった。
「坊ちゃんおかえりなさいませ。」
 家政婦の笑顔は気持ち悪い。生まれてからずっとこの家で過ごしているがやはり人でもないものとは本能的に相容れないようで無意識の嫌悪がある。
 だが何故かあの教師は違う。その身に病魔を飼いながら、心は蝕まれていない。病魔は人の心に付け入り人を利用して生きるものだ。それを抑え込み病魔を利用するとなれば相当な心労となるだろう。あの恐ろしい見かけはその代償なのだ。
「坊ちゃん、家元がお呼びですよ。」
「…おう。着替えたら行く。」
 家元である父親の俺にたいする用事なんて一つしかない。藤家は代々病魔を放ち人間の生気を食らうことで生きる家なのだ。多くの人間の生気を集めるためには多く人間が集まる場所へ行く必要がある。自室で制服から甚平へと着替え深呼吸。父親はもはや人間ではないのだ。この家に立ちこめる病魔のほとんどが父親の力で作り出されているのだ。
「麓介、戻りました。」
 父親の部屋の襖の前に座り声を掛ける。すれば襖がひとりでに開いて病魔の出した黒い障気が溢れ出す。父親は俺に世を向けたまま、入れと言って、俺はそれに従って部屋に入る。また襖はひとりでに閉まって病魔の匂いが肺いっぱいになる。
「…例の、罹人はどうだ。」
「別に…何もねー…ないです。」
「そうか…。」
 父親の口から黒い障気が吐き出される。
「あの、親父…、あいつ…別に何もしないと思うんだけど。」
 父親は病魔を咀嚼する派出須の能力をひどく警戒していた。病魔の力で生きている自分の身を滅ぼしかねないからだ。それはわかる。俺が藤家に生まれてもう十五年。病魔を扱う事の意味や自分の宿命もわかっている。だけど、派出須は、あいつは、ただの人間なんだ。
「麓介。まさかあの罹人に肩入れしているわけではないな。」
 父親の声が一層低くなり顔を上げれば黒い障気を纏う父親の目がぎらりと鈍い光を見せた。
「…んなわけねーだろ。俺は藤家の長男だぞ…。」
「そうか、ならばいい。」
 そうだ、自分の背負っているものはわかっている。この家を守る為には、あいつは邪魔なんだ。
「新しい病魔をやる。これをまた学校に撒いて来い。」
 父親の口から吐き出された芋虫みたいな病魔を受け取りそれを飲み込んだ。口から出た障気を慌てて飲み込んで病魔を蓄えた。




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