線上にない

※平丸独白。
※乾いた関係。






 とどのつまり、自己の満足の為に僕は生きてきたワケで何一つ重要視すべきことはない。装飾や環境、感覚や言動。全てが自らの為であり他はない。不自由をしない為に憐れにならない為に恐れない為に嘆かない為に善処した。企てたことはないし構えたことはないし委ねたことはないし愛したこともない。端的に言って終えばつまらない男だった。大した野望や希望や要望や欲望や絶望や失望や羨望や待望や大望や志望はなく、無難を好んだ。厳密に言えば好みではなく、それしか選べないとさえ言える、つまらない、つまらない以外の形容の出来ない男だった。いよいよ二十代も後半を迎えようとするのに何一つ秀でたこともなく劣ることもなく、会社員として勤めていた。それが僕だった。文字にして約百五十で語り尽くせてしまうのが僕だった。
 不幸ではなかったし困難はなかったし苦労もなかった。だがそれは同時に幸福ではなかったし安楽でもなかったし余裕もなかった。何かを変えようとは思わなかったし変える方法も知らなかった。世界はくすんだ色をしていて苦くて臭くて嫌いだった。どうして僕は生きていたのか、どうして僕は死んでいないのか、中学生の様な浅い思考が堂々巡り。死にそうで生きそうで、僕は限りなく0に近い場所にいるのかも知れない。

 新妻のマンションを訪ねたのは昼間だった。原稿を上げて午前中は眠っていたからだ。新妻は僕を迎えてももてなすことはしない。それが互いに生きやすく、求めない僕に適している。新妻が見ていたテレビを床に座って見て、新妻は勝手に僕の膝を枕にした。僕に断ることもなく僕も断ることはない。ボリュームなく細い髪に目を引かれれば勝手に触れて、その手を新妻が気に入れば勝手に舐められる。舌を指で弄んで、強く吸われれば指先の血が熱くなる。このまま新妻がその気になればキスをして互いに服を脱がせてセックスをする。新妻は僕を求めてるワケじゃないし、僕も新妻を求めてるワケじゃない。好き嫌いはないし、きっと僕は、平凡な職業を脱却しても平凡なのだ。セックスがしたいワケでもなく新妻と抱き合っている。
 僕はつまらない男だ。何も望まないし何も欲しがらない。だけどそれは無欲とイコールではなく、何が与えられても受け入れる、死んでも生きても楽ではない。つまりは果てしなく貪欲な男なのだ。


100302
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