ロキットサワー
※いろいろどうなの?な妄想込み。 ※何もない。
オレには不名誉なあだ名がある。「突き抜け」。これはこの業界の言葉で人気がなく、10週で連載を終了する作品のことを指す。そう呼ばれるのは担当作家が突き抜けてばかり、というワケじゃない。突き抜けて終わるのは作品ではなく、恋愛。
「なんか、雄二郎くんって普通っていうか…面白くないんだよね。」 また突き抜けた。合コンで出会った彼女とは付き合って10週ちょうど。何度かデートしてベッドインまで漕ぎ着けたのにもうお別れとは些か胃が痛むが彼女の薬指に知らない指輪が見えて引き留めることも出来なかった。そもそもそんなに彼女を好きだったろうかわからない。笑った時にできる笑窪が可愛いな…くらいだったかも知れない。 「それにジャンプ?の仕事も忙しいみたいだし、お互いにとっていいんじゃないかな。」 何人に言われたかわからないような文句を聞いてオレはなるたけ冷静に、少し笑顔を交えて返す。そうだね、ありがとう、今まで、楽しかったよ。なんて、嘘っぽい言葉。
「服部雄二郎先生の次回作にご期待ください。」 打ち合わせに練馬区のマンションを訪ねれば福田くはニヤニヤとイヤらしい笑みを向けて言った。 「な、なにを…」 「フラれたんでしょ?7回連続突き抜けおめでとうございます。」 「なんで君が知ってるんだ!」 それを聞いてから福田はやっぱり、と笑みを深めた。しまった。カマ掛けだったのか。趣味が悪い。福田真太は趣味が悪い。これがビジネスの関係じゃなかったら殴りたい所だ。けれどこれをぐっと堪えるのが大人だ。ここで怒鳴るのはガキのすることだ。 「なんで10週なんスかね。今まで突き抜けた作家の呪いでも受けてんじゃないですか?」 不思議そうに福田くんが言った。そう、何故か10週なのだ。突き抜けという不名誉なあだ名が編集部に浸透するほどに10週でフラれる。アラサー男としてはそろそろ一人と長く付き合いたいものなのだが上手く行かない。 「10週って三ヶ月…くらいスね。夢が覚めるにはいい時間だな。」 くるくるとペンを回して福田くんが言った。僕は手近な椅子を引いて腰を下ろす。確かに。付き合って10週と言うのは飽きが来るのかも知れない。 「なぁ、福田くん。僕はつまらないか?」 昨日まで彼女だった女の顔を思い出しながら聞いた。 「そんなことないですよ。」 福田くんがあっさり否定するものだからちょっと嬉しくて笑顔になる。でも福田くんの唇はまた開いて言葉は続いた。 「頭とかカナリ面白いっスよ。」 「頭かよ!!!」 全力でツッコミを入れたら福田くんがゲラゲラと笑うものだから怒る気も失せる。 「雄二郎さん。」 「なんだよ。」 「一層、オレと付き合います?」 「おー喜んで。」 「あ、スンマセン。やっぱ雄二郎さんはねーわ。」 「奇遇だな。僕も福田くんはない。」 「ひでぇー。」 「どっちが。」 下らない冗談を言い合って福田くんと笑う。福田くんは笑う時、整った顔をくしゃくしゃにする。こういう子供みたいな所もモテる要因か、と思いながら自分の厚い面の皮を憎んだ。福田くんと出会って数年。毎週顔を合わすが福田くんと会話したくないと思ったことはない。突き抜けてきた彼女たちと居たときより福田くんと居る方が楽しいんだ。そりゃ突き抜けるのも無理ないよな。 カバンからFAXで貰った福田くんのネームを取り出して広げる。漫画の話をするのはワクワクする。福田くんは悪趣味だが面白い。本当に福田くんと付き合ったら突き抜けないんだろうな、と考え、苦笑してから打ち合わせを始めた。
100207 ※話の都合上、突き抜け=10週打ち切り、としていますが、10週以下で終わる作品もありそれらも突き抜けと呼ばれます。 ※多分。
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