アスターノウ

※「リリープレイ」の続編。







「藤先生ってどこに住んでるんですか?」
「今は都内で一人暮らしだけど実家は近所です。」
「先生はここの卒業生ってホントですか?」
「はい。7年前に卒業しました。」
「成績は良かったんですか?」
「いや…勉強は好きじゃなかったです。」
「中学の時モテました?」
「さあ、どうだったかな。」
「好きな人は居たんですか?」
「居たけど…片想いでした。」
「今は、居るんですか?好きな人。」



 はじめの一日は質問責めで終わった。一限から六限、四つのクラスを回って自己紹介をすれば珍しい教育実習生に食い付く生徒たちに休み時間まで囲まれて大変だった。昼休みは保健室に行こう思っていたのにそれは叶わず女生徒37人(退屈だから数えた)に囲まれての昼食になった。俺の研修を担当する初老の男性教師は藤くんは生徒に気に入られたみたいですね、と微笑んでいるだけだった。そういえば昔もこうして女子に囲まれる事が多かったように思う。それも中学がピークで年を重ね大人になって行けば減って今のこの状況が懐かしい。使い慣れない敬語も肩が凝るけど教育者として努めている。六限を終えれば担当教師の受け持つクラスのホームルームに参加して実習は終了。放課後の職員室で、一日のまとめのレポートを書いていれば気さくな担当教師が話しかけてきた。とてもいい人だった。自分が実習した時の話や今日のオレの反省点なんかを説教臭くなく上手く話してくれる。教師とは話をできなければならないなぁと思ってそのこともレポートに書き留めた。職員室にあの不気味な養護教諭の姿はなく、まだ保健室なのだと思った。せっかく同じ学
校に居るのだからもう少し会う機会もあると思ったけど一日は忙しく、保健室の前すら通れなかった。
 すっかり日が落ちてから担当教師と一緒に学校を出た。オレは実習の間、実家に帰っていたから駅に向かう担当教師とは途中で別れた。夏の暑さは少し引いたがまだ空気は暖かい。オレが派出須逸人と出会ったのもこの頃だった。派出須も赴任してすぐは生徒から注目を浴びていた。それは不気味さからであったがオレが今日体験したのとそう変わらないだろう。さしずめオレは新任教師に群がる生徒の一人だったのだ。ただ派出須に向ける視線が憧れではなく熱を帯びたものだったが。

「藤くん。」
 背後から聞こえた声にざらつきを覚える。聞き違える訳もない、派出須の声だった。振り返ればそこに立つ細身の男。生温い風に雲を千切った様な髪が揺れた。
「派出須先生。」
 名前を噛み締める様に呼ぶ。白い陶器肌は瞳孔を開いたまま唇を横に引いて微笑んだ。不気味だ。一見微笑みには到底見えない表情は派出須の癖だった。
「先生っていつもこのくらいに帰るんですか?」
「生徒が帰るまでは極力居るようにしてるから。」
 質問に少しずれた回答があって派出須が相槌を打つオレの隣に並んだ。悔しいけど身長は抜けずに目線は少し上。オレが一歩進めば派出須も続いて進み一緒に歩く。会いたかった人に偶然会えて幸せだと思った。一緒に歩いてるこの時間が幸せだ。オレの幸せは易いんだ。派出須が居るだけで簡単に手に入ってしまう。派出須に会わなかったこの7年はどれほど切なかったか。派出須にとってオレは生徒でしかないとしてもオレは派出須がずっと好きなんだ。

「じゃあ、藤くん。また明日。」
 オレの家に着けば派出須は手を振った。
「はい、また明日。」
 今日たくさんの生徒にしたのと同じように手を振って、愛しい人を見送った。







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