prologue

 世の中の人間の殆んどが馬鹿に見えた。子供に期待を押し付ける親、うわべだけの友情を演じる級友、公に肌を晒し金を得る女、セックス前提の男女の付き合い、頭の上がらない大人。馬鹿らしい。とある漫画にあった死のノートをオレが手に入れたら主人公と同じこと望んだだろう。けれどそうはしないのは現実は冷ややかでつまらない馬鹿ばかりで死のノートなんて存在せず、オレはあの主人公のように人間を堕ちて死ぬのは嫌だったからだ。ノートを手にしても現実を優先するだけのオレも下らない人間だった。何か、何かをしなくてはならないとどこかで急いていた。馬鹿な大人になってしまうまえに、出来るだけ早くその何かを見付けたかった。
 馬鹿だと思って見下して終えば人間は観察するに面白い対象だった。下心剥き出しの笑顔が飛び交う教室。何も考えていない馬鹿は利用された。教室の一番後ろの席というのは観察に最も適した場所だった。幸いオレは背が高かったから前の席にいるより後ろの席にいる方が合理的で、席替えでも難なく最後列を手に入れる事が出来た。観察を続ける内にクラスの人間が何を考えて何をしているのかある程度わかるようになった。あいつはきっとこう言うだろうと思うとそいつはその通りに言った。予想が予想ではないかのようにクラスの全体をオレが操っているかの様に想像が追い付いた。理解してしまった。クラスの人間を、全て。
 ただ一人を除いて。
 真城最高。こいつだけは食えない。無難に良くも悪くもこなしているが誰より冷静だった。本心を見せず、自分の人生を客観視している様に見えた。成績は良くはないが頭の良さは学業成績じゃない。真城は本心所か感情もうわべで取り繕い何も求めずにいた。観察していても飽きない。一体何が彼の本質なのか見抜けない。オレはその日から夢中になって真城の観察を始めた。
 今から思えばその時、既に戻れなくなっていたのかも知れない。サイコーの秘密を暴くつもりで見たノートの絵を見た瞬間、探していたものを見つけたと思った。サイコーと二人ならどんなことだってできると確信したのだ。人間に執着したことがないオレがサイコーしかいないと思えた。それは彼の才能を見抜いたのかも知れないけど、殆んどはサイコーと二人で夢を掴みたいと言う思いだった。
 オレの観察からサイコーと亜豆美保が思い合ってることなんて予想がついていたしどうってことはなかった。まさか中学生の恋愛が婚約にまで発展するとは思わず、驚き戸惑う内に二人にオレの入れない絆が生まれた。オレはサイコーに対する思いを測りかねていたし、急激過ぎる展開についていけなかった。けれど思い知るのはサイコーが亜豆への気持ちをのろけるとき。ズキズキと胸が痛み、二人で漫画家を目指すのもサイコーにとっては亜豆の為でしかないのかと思えば耳が遠くなった。サイコーが笑う度、その笑顔を独占できるのはオレではなく亜豆なのだと思い知らされ死にたくなった。
 高木秋人、失恋してから初恋に気付く、十五歳。




090325
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