甘さと痛み


 藤くんは珍しく体調が悪い。普段は特殊な病気(※サボり)以外はなんともなくピンピンしてるのに今日は頭が痛いと青い顔をしてやって来てベッドで寝込んでいる。そんなにツラいなら早退させてもいいだろうと思って自宅の住所を問えば家には帰りたくないと病人とは思えないメンチを切られた。親御さんと喧嘩でもしたのだろうかと思うけど以前から藤くんは家のことを煩わしく思っているような節がある。それもこの思春期特有のものだと気にしてはいないけど。
「藤くん、頭痛薬飲んで。」
 小瓶から取り出した白い錠剤を一つと水を汲んで藤くんの眠るベッドを覗いた。藤くんの返事はなく腕だけが伸びて手招き、ベッド傍のパイプ椅子に座る様に促される。僕は儘に椅子に座り藤くんの様子を窺った。
「薬だけでも飲んだら少し楽になるから、ね。」
 優しく声を掛ければ枕に俯せていた青い顔がこちらを向いて黙る。僕はなるたけの笑顔を藤くんに見せて安心させようとする。
「薬、アンタが飲ませてくれないと嫌だ。」
 聞こえたのは予想外の返答だった。僕は完全に虚を突かれて目を丸くした。藤くんはゆっくり体を起こして僕を見る。髪の黄色と顔の青さが補色しあって互いが引き立ってるよ、藤くん。
「飲ませろ。」
藤くんは形のいい唇を開いて顎で促す。僕は戸惑いながらもあの干渉を嫌う藤くんが甘えてくれることが嬉しい。錠剤を摘まんで藤くんの口元に持って行くとそれを器用に咥えた。続いてグラスを緩やかに傾けて唇に付けてやると丸い瞼が伏せて睫毛を水面に映しながら僕が傾ける水をゆっくりこくこくと細い喉を通った。
「ん…、」
 筋の通った鼻から小さく息が抜けて藤くんはグラスの水を飲み干した。グラスを唇から離してやれば少し残っていた水が唇から溢れて顎から伝い喉から胸を濡らす。
「ごめん!濡らしちゃった!」
伏せていた瞼を上げ、頭痛からかぼんやりとした藤くんの瞳。僕はハンカチを取り出して藤くんの唇、顎、首を拭った。ちょっと開けるよ、と断ってワイシャツの下の黒いシャツの襟から手を入れて水を拭き取った。
「先生。」
 不意に呼ばれて肩に藤くんの頭が寄り掛かる。咄嗟に支える様に肩を抱けば藤くんの体は熱かった。
「薬ってどれくらいで効く?」
「たぶん20分くらいで…。」
「じゃあそれまでこのままいさせろ。」
 20分も腕がもつだろうか、と一番にそう考えた僕は藤くんに甘い。きっと僕は藤くんに何を言われても甘やかしてしまう。今なら触っても怒られないだろうか、暖かい色をした髪を撫でてその痛みが消えることを祈った。






091223
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テーマ「人外ファンタジー」
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