視線が泣いている

※田←彼前提









 昨夜、田中さんから連絡があって打ち合わせをするから集まってほしいと言われた。僕は一番にミーティングルームに着いた。早く着きすぎた。指定された時間までまだ30分もある。退屈だなあなんて思ってたらすぐに蒼希彼方と田中さんがやってきた。僕らがユニットとなるまえから二人は一緒に仕事していた。蒼希彼方は一人で歩かせるにはちょっと危ない変態だったからいつも田中さんが付き添っている。僕たちは互いに軽い挨拶をして、早かったですね、なんて日常会話をする。まだメンバーが揃わない。蒼希彼方はやはり今日も眩しい。僕が可愛い顔を取り繕ってこれなのに飾らない蒼希彼方がこうなのは納得がいかない。生まれ持った才能というか蒼希彼方が例え変態だとしてもそれは薄れない。田中さんの携帯に着信がありそれに応じるために田中さんは部屋を出て行った。蒼希彼方は田中さんの背中を視線で追って扉を見ていた。その横顔は辛そうで白い肌だけが取り残されたみたいに浮いている。
「カナたすさあ、なんで悲しそうなの?」
 ミーティングルームの中央には広い机とパイプ椅子が円を描くように並べられている。僕は出入り口から一番近い椅子を引いて腰を下ろす。
「オレはいつも楽しいけど、」
「嘘。今だってずっと泣きそうな顔で扉見てたじゃん。」
「…それは、なにがあってもいいリアクション取れるように…。」
 田中さんがいない時の蒼希彼方はゲーラが感じられない。物寂しげに瞳の色は濃くて子供みたい。ああ、そうか。新人にしては異常すぎる蒼希彼方のゲーラは田中さんが引き出しているんだ。それなのに僕らとユニットを組ませるなんて田中さんは馬鹿なんだろうか。蒼希彼方のゲーラ、いや魅力があれば頭でコンクリートをかち割ろうがファンは付くだろう。それなのにきづいていないのは田中さんだ。蒼希彼方は芸人になりたければいつだってアイドルをやめるだろう。でもそれをしないのは田中さんがいるからなのに。
「…カナたすは田中さんが好きなんだね。」
「なんで!」
 蒼希彼方は急に顔を赤くして視線を彷徨わせもごもごと口籠っている。こうもわかりやすいのに田中さんは気づいてないのだろうか。動揺している。蒼希彼方は拳をぎゅうと握りこんでいる。
「いいよ。隠さなくて、誰にも言わないし。」
 ああ、可愛い顔が泣きそうだ。
「だから泣かないで。」
 





091222
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