痛みを伴う

※「解す」の続編。








 アイツは言った、大切な人を気持ち悪いなんて思わないと。
 友達は大切だと思う。美作もアシタバもイイヤツだし退屈しない。けどやっぱり触れることは躊躇われた。体温を感じることも呼気を感じることもやはり快くなく、自然とスキンシップは避ける。美作は馴れ馴れしいから何度か肩を組まれたが背筋が震えて吐きそうだった。まるであの時の様に。

「やぁ、藤くん。」
 保健室を訪ねれば不気味な顔が笑んで迎える。慣れた風景に怯えることなく挨拶を返して扉を締める。
「藤くん?」
 扉を締めた後ろ手のまま動かないオレに派出須は首をかしげた。オレは扉に背を預けてその白い顔を見つめた。
 何かがおかしい。
 派出須は心配そうな声を出してオレの傍まできた。不器用な養護教諭は対処を決めかねて腕をさ迷わせジュラ期に滅んだ肉食恐竜のように手を構えている。勿論派出須にオレを捕食する意思はないのだが見掛けから損をする性質からそう見えてしまう。
「今朝、美作に肩組まれて吐きそうになった。」
 告げれば派出須は腕を奇妙に構えたまま動きを止めて目を丸くした。
「美作は…嫌いじゃねーし、イイヤツだけど、やっぱ無理だった。」
 背は扉の硬さに触れたまま派出須を見上げれば電灯の光を遮って白く影に浮かぶ顔があった。
「大丈夫だよ。急には無理かも知れないけど、大丈夫。」
 派出須の声は優しい。顔だって不気味に見えるけど整っていて、無駄がない美しい顔だ。
 何かがおかしい。
 離れない女の声が温度が臭いを体感したはずの保健室では薄れるのだ。
「藤くんは一人じゃない。」
 派出須が微笑んだ。胸が温かく呼吸が楽になる。肘が曲がりこちらに向いた指、白くて硬そうで乾いている。それを握って見上げれば蜜色の瞳が揺れる。
 何かがおかしい。
「先生、ちょっとだけ目を瞑って。」
 頭の上に疑問符を浮かべたままお人好しの養護教諭は目を閉じた。手は触れている。冷たく血が通っているかも怪しい手。他の誰とも違う。派出須に触れるのは、そうだ。この前だって、肩を撫でられても不快はなかった。
 クラスで4番目に身長のあるオレより派出須は遥かにでかい。閉じられた瞼に睫毛は無く、ひび割れが痛そうに見える。扉から背を離し、踵を浮かせた。血色の悪い唇に口付けた。
 不快はなかった。
 温かい胸が小さく痛んだ。





091217
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -