泣いた太陽
※ぼんやり本好くんの家庭を捏造。 ※第二次性徴的なあれ。
「本好、遅いし泊まってけよ。」 トイレから帰ってきた美っちゃんが言った。ゲームに夢中になっていたけど気付けばもう10時を回っている。さっき美っちゃんと美っちゃんのお母さんの声がしたからきっとオレの心配をして泊めるの許可を貰ったのだろう。オレはありがとうと言って、家に連絡だけ入れろよと美っちゃんが言った。オレは携帯を取って自宅に電話を掛ける。いつも通り留守番電話の機械的な音声が聞こえて美っちゃん家に泊まると言うことだけを録音して電話を切った。その録音さえ、いつ聞かれるのかわからないけど。 「風呂入ろーぜ。沸いてるから入れって母ちゃんが言ってた。」 美っちゃんはタンスを開けて着替えを出した。二人分。さっさと動く(早くしないと美っちゃんのお母さんが怒る)美っちゃんを追いかけて風呂場に向かう。脱衣場で服を脱いで浴室に入る。湯槽に張られたお湯が湯気を立てて視界が白かった。小学生の時から美っちゃんの家には何度も泊まってるからお風呂も慣れた。泊まったらお風呂は一緒に入って背中を洗い合う。美っちゃんの背中は大きくて好きだ。いつもこの背中がオレを守ってくれる。美っちゃんの背中って温かい。肩から腰、首回り。泡立てたスポンジで丁寧に美っちゃんの背中を洗った。 「美っちゃん、痒い所ある?」 「ケツ。」 「えー…それは自分で洗ってよ。」 泡で滑る背中をスポンジで撫でて笑った。美っちゃんはかっこいいし面白い。泡だらけの美っちゃんが振り向いて交代、と言ってオレの背中に回った。美っちゃんに背中を洗われるのが少し苦手になった。背中を見るのは好きなのに後ろにその大きい体を感じるといつからか胸が苦しくなる。もし、後ろからその温かい腕に抱き込まれたら、と頭に過って泣きたくなるくらい苦しい。 「本好。」 オレの背中を洗う美っちゃんが呼んだ。 「なに?」 オレは普通に答える。 「お前さ。生えた?」 びっくりして心臓を吐くかと思った。生えた、って…何がとは聞かなくても分かる。たまに男子の間で話題になるアレに違いないけど、急に恥ずかしくなって黙ってしまった。クラスでも生えてる子はいっぱいいるし声が変わった子だっている。けどオレは声も変わってないし、…生えてない。遅いのかな。遅れてる?変かな?どうしよう。美っちゃんは男らしいから最近ちょっと髭だって生えてるし、オレが生えてないって言ったら笑うかな、嫌いになるかな、どうしよう。 「…わ、わかんない。」 泣きたかった。体が弱いから、大人になれないのかな。クラスの子みたいにエッチなことにあんまり興味ないし、体も細いし、オレって変? 「なにィ?オレが見てやるよ。」 胸が跳ねた。顔が熱くて泣きそうなのに疼く。なんだろう!わかんない!苦しい!美っちゃんがオレの肩を掴む。熱い!なんで!泣きそうな顔を隠そうと俯いたら毛も生えてないのに立ってた。意味がわからなくて慌てて足を閉じた。嫌だ、どうしよう、美っちゃん、どうしよう、嫌だよ、わかんないよ、涙がボロボロ落ちる。肩に掛かった手に力が入る。やっぱりオレはおかしい。見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで!
091129
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