君と二人

※「君の唇」の続編。
※完結編。





 雄二郎は頷いた。なんだって男同士でこんなことになってんだと思わないでもなかったけど、これで気持ちもはっきりするだろうと思った。唇同士を重ねるだけの手軽な行為に心臓は弾ぜそうに血液を全身に送った。雄二郎の唇は柔らかくさらさらとしていた。軽く食めば震えた雄二郎に愛しい気持ちがいっぱいになってちょっとだけ悔しかった。確かめるだけの筈が止まらず、啄む口付けを繰り返した。雄二郎も応えて時折オレの唇を噛んだ。好きなんだと思った。恥ずかしさはあったけど沸き上がる気持ちは心地好く、唇を離して雄二郎を抱き締めた。オレの脈拍の早さは知っていたけど雄二郎の脈拍も早かった。何も言わなくても互いに気持ちまで伝わってしまって可笑しくて笑った。

 繋がったように思った点と線に感じた違和は確かだった。
「だって、本当に怖かったんだよ。」
 腫れが引いて赤みだけ残った頬を緩ませて雄二郎は言った。
 発端は先週、新宿で打ち合わせの後雄二郎は飲みたくなって適当なバーに一人で入ったらしい。元々酒に強くない雄二郎は一杯で酔っ払い、話しかけてきた女の子と電話番号を交換した。が、酔いが覚めてからその女の子と会ってみるとどうもそいつは昼間は会社員のオカマ(42)だった。その気はない雄二郎にそいつはすっかりご執心でうっかり家までバレてしまったから、オレの家に逃げて来た。大量の着信はその人からで、殴られたのは、その人を振ったからだった。背中や肘の痣は本人は気付いて居なかったらしく、知らない内にぶつけた。だそうだ。
「普段から人のことを人間としてどうとか子供だとか言ってますけど、雄二郎さんの方が情けないじゃないッスか!」
 まさかそんな情けない理由で泣いて逃げて来ただなんて聞いて呆れる。
「だってストッキングの下に脛毛が渦巻いてたんだぞ?口の周り青くてちょっとはげてたし!」
 それは確かに壮絶だがオレはもっと尋常じゃないことが起こっているものだとばかり思っていたから落差はすごい。ふざけるな。オレがどれだけ、
「福田くん、もしかして心配した?」
「してなきゃ泊めないし迎えにも行きません。」
「福田くん。」
「何スか。」
「可愛いね。」
 思い切り脛を蹴ってやった。
 結局雄二郎がうちに泊まったのは二晩でめでたく事件解決となった今日は帰ることになった。雄二郎は仕事が休みらしいがオレは休みじゃないから追い出す形だが。たった2日の間にオレは思い知らされ気付かされた。なんで雄二郎なんか、と思うけど今まで誰にないほどオレは雄二郎が好きなんだ。
「じゃ、僕に会いたかったら早く原稿上げろよ。」
「雄二郎さんこそオレに会いたかったらいいネタ持って来て下さいね。」
 不思議と距離感は変わらなかった。雄二郎は軽い礼を述べて部屋を後にした。オレはデスクに戻ってペンを取った。まだ唇に残る感触が愛しく思う自分を小さく嘲った。






091112
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