君の腕

※「君の涙」の続編。








 シャワーを浴びて暖かい内に雄二郎と布団に入った。たった1日でオレはすっかり雄二郎を男だとかそんなことにとらわれず、腕に収めることが当たり前に感じられた。考えてみれば昨日今日の話でなく雄二郎という人間はオレにとって特殊だったのかも知れない。弱そうなクセに気持ちをぶつけても文句を言っても受け止めて、時には説教された。年上のクセにどこか情けなくて、でも真面目で頑固だった。大人らしい冷めたことも言うかと思えばガキみたいに熱かったり、仕事だけの付き合いなのに妙に信頼感があって、すごく近い存在だった。
 雄二郎を襲った男とオレは同じになってないかと不安になった。けどなんだが気持ちは澄んでいて穏やかだった。ただ単にオレがゲイで雄二郎に体を求めてるんじゃないんだと気付いて安心した。学生の頃付き合った女はどうしても欲望に支配されて大事にしてやれなかった。会う度にリビドーを抑えきれず何度だって抱いた。そして失ってから気付くのだ、本当はもっと会話がしたかったと。今までの女に対するものとは違う。男の恋愛なんて欲望ありきで成り立っている。性欲もなくオレは雄二郎を大切に思うのか。逆に気持ち悪い。一層汚い欲望を抱いていた方が自然だった。
 さっきまで暖かかった雄二郎の爪先はすぐに冷えてきて、オレはまた足を重ね擦って暖めた。手を繋いで目を閉じる雄二郎の顔を眺めた。やっぱり男だった。薄暗い中でもわかるほど、骨格だって太く、女には見えなかった。
「福田くんって逞しいね。」
「…体力なかったら漫画家なんてやってけません。」
「本当にマンガ馬鹿だな。」
「雄二郎さんだってそうでしょう。」
「言うなよ。編集部じゃストイックな雄二郎で通してんだからさ。」
「それ、絶対通ってないッスよ。」
 他愛もないいつもの会話。雄二郎の震えは治まって繋いだ手を弱く握り返していた。
「雄二郎さん、オレは平気なんですか?」
「へ、」
「オレとくっついて気持ち悪かったりしないんスか?」
「…福田くんは、そんな感じじゃない…っていうか…」
「……。」
「…福田くん?」
 なんだろう、このもやもや。線は繋がったし、雄二郎はここにいるし、なのに釈然としない。自分の中で名前をつけられない感情まで蠢いて、目の前の雄二郎を見ると胸が苦しいだけだった。
「オレって雄二郎さんのこと好きなんですかね。」
 雄二郎の体が強張った。ああ、男に怖い目に遭わされた後でこの発言はまずかったか。繋いでいた手を緩めて離そうとすれば逆に引かれて雄二郎の額が胸に当てられた。
「そんなこと俺に聞かれたってわかんねーよ。」
 一人称がすましたものから砕けたものに変わって小さく笑った。
「…なるようにしかならないでしょーね。」
 首を曲げれば鼻先に触れた柔らかい髪が愛しく思えてその頭に口付けを落とした。
 小恥ずかしい気持ちになって心臓が早鳴った。雄二郎は頭頂部からハゲそうだなとふと思って含み笑ってから目を閉じた。






091112
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