君の涙
※「君冴える」の続編。 ※原作軸のとんでもパラレルですすみません
「ふ、くだくん…?」 「雄二郎さん、どうかしました?」 「………たすけて。」
電話越しの雄二郎の震えた声が耳から離れない。部屋着にジャンパーだけ羽織って家を飛び出した。アクセルをふかし最短距離を行って一秒でも早く雄二郎の元を目指した。冷たい風を切る。ぐんぐん進んで耳が冷えて千切れそうだった。千切ても良かった。繋がってしまった線が嫌な方向しか差さない。雄二郎、雄二郎、雄二郎雄二郎雄二郎雄二郎雄二郎雄二郎雄二郎雄二郎雄二郎雄二郎雄二郎!早く、一秒でも早く雄二郎に会いたい。 運良く信号には一度も引っ掛からず集英社からそう遠くない小さな神社に辿り着いた。雄二郎は鳥居の影で膝を抱いていた。 「雄二郎さん!」 「…福田くん。」 雄二郎がゆっくり顔を上げるとその頬が腫れていた。どうしたんですか、なんて当たり前の事を聞かなくてもわかる。殴られた痕だった。 拳を無意識に強く握り込んでいた。オレは苛立っていた。雄二郎を殴った誰かに?何もできなかった自分に?矛先が定まらないまま手のひらに爪が食い込んでいく。雄二郎は大人らしく泣くこともなかった。でも震えていた。震えた手でオレの腕を掴み堪えて立とうとした。でも立てなかった。雄二郎は泣きもせずに誤魔化す為に笑顔を作ろうとした。でも笑えなかった。オレは苦しかった。雄二郎に頼られていたのに、何もできなかった。嫌な予感だってしたのに、守れなかった。 「ごめんね、福田くん…急に呼び出して。」 「謝んな。」 オレはその震える体を抱き締めるしかできなかった。 「…謝らなくていいし、立たなくていいし、笑わなくていい。」 腕の中に冷えた肩を収めて強く強く抱き締める。 「いつでもオレは駆け付けるから、オレには甘えてください。」 雄二郎の鼓動は少し弱くて早い。もじゃもじゃに指を漉き入れて抱き寄せた。 「オレの前なら泣いてもいいッスから。」 雄二郎がオレのシャツを握って肩に凭れながら静かに泣いて、オレは背中を擦ってやって宥めた。 「福田くん。」 「なんスか。」 「…引いてない?」 「何で引くんスか。」 「も、う…わかってんだろ。」 「まぁ、大体は。」 「……僕、さ。」 どうしてツラい事を言いたがるんだろう。言えば楽になるのか?なら言えばいい。何を聞いたってオレは受け止めるつもりでいる。 「襲われかけた。」 言ってしまえば急に雄二郎は項垂れた。オレの腕をぎゅうと掴んで俯いて不安だとか恐怖だとかを吐き出す様にあー、っと低い声で叫んだ。 「雄二郎さん。」 その背中が小さく見えて胸が苦しかった。無理矢理抱き締めて口付けを送りたいなんて妄想を全力で胸の奥にしまいこんで優しく手だけ引いた。 「帰りましょう。」 まだ足元が覚束無い雄二郎にメットを被せて結び付ける様に腰に腕を回させた。離れないでくださいね、と雄二郎に声を掛ければ返事の代わりに背中にぴったり体がくっついた。スタンドを蹴り上げて自宅に向かって単車を走らせた。
091112
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