君の熱

※「君の傷」の続編







「福田くん。」
「はい。」
「寝ないの?」
「ペンまで仕上げてから寝ます。」
「福田くん。」
「なんスか。」

 新人漫画家☆福田真太の家に突然転がりこんで来たのは担当編集☆服部雄二郎だった!器のデカイ福田は三十路手前の雄二郎をしばらく泊めることにしたのだった!男二人のむさ苦しいドキドキライフが今はじま…………って欲しくない。事情は聞かず、普段の仕事の恩もあって雄二郎さんの頼みを蹴るわけにも行かなかった。そして何よりお人好しを自認しているオレがあの怯えた人間を追い出せる筈がなかったんだ。部屋が狭いから寝床はロフトベッドしかない。だからオレは雄二郎を思って譲ってやった。十分だろう。最近の若い奴は思いやりが欠けてるとか脂乗ったオッサンが言ってたけどオレは十分優しいつもりだ。だがこれはどうだ?器がデカイとか通り越してる気がする。バカか?オレはバカだったのか?正直信じらんねぇ。

「灯りがついてると眠れない。」

 ふざけんなって叫びたかった。だけど叫ばなかった。オレは大人だった。実家から持ってきた羽毛布団に埋もれる雄二郎を見てると怒る気も起きなかった。仕方なく仕事はやめにしてシャワーを浴び、眠ることにした。
「雄二郎さん、もっとそっち寄ってください。」
 布団がないんだ。床で眠るのは御免だし雄二郎に床で眠れとも言えない。選択肢がない。成人男性二人が眠る用に設計されていないロフトベッドは狭かった。
「これ以上は寄れないよ。」
 さすがに頭悪ィだろうと自分で思いながらも他の解決方法が思い付かなかった。雄二郎はオレと眠るにもあまり抵抗はないらしくどこか楽しそうだった。修学旅行みたいだね、とかバカみたいなこと抜かすからまた怒気が冷めた。
「…これで眠れるんスか。」
 部屋の灯りは落としてカーテンの隙間から僅かに差し込む外灯がぼんやり雄二郎のシルエットを映していた。
「うん。明るいと気が散るんだよ。」
 いつでも眠れるオレには理解が至らないが寝付きの悪い人間は条件が揃わないと本当に眠れないらしいことを知ってたから軽く相槌を返して寝返りを打った。

「冷てぇ。」
 爪先が何か冷たい物に触れてそれをなぞった。そうしたら目の前の雄二郎が跳ねて感触から雄二郎の足であることを知った。さっき風呂に入って、すぐ布団被ってたのにこんなに短時間で冷えるものなんだろうか。
「雄二郎さんって冷え性なんスか?」
「…冬場は、ちょっと。」
 そう言えば高校の時の彼女が冷え性でいつも手足が冷たかったな、と思い出してその冷たい足を両足で挟み、暖めるように擦ってやる。欠伸が出た。
「手は…冷えてます?」
 雄二郎がオレの名前を呼んでちょっと戸惑っているように感じたけど気にせず両手を掴んだ。やっぱり冷たい。手のひらで包んで引き寄せ息を吹き掛けて暖める。瞼が重い。あれ、オレって結構疲れてたのか?…そういや今日は朝からずっと下書きだった気がする。
 少し暖まった足先から伝って足を絡めて手を抱き込んだまま意識が遠退く。
「福田くんの手暖かいね。」
 アンタが冷たいだけだ。とは返せず眠りに落ちた。
 オレは人のことには敏感で自分のことには鈍感な典型で、雄二郎の事情はぼんやり理解していたのに、自分の雄二郎への気持ちがどういうものかわかっていなかった。
 わかっていなかったのに、事情を知っても雄二郎を助けたいと思っていた。





091109
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